「ターノ・シーはすっかり享楽主義に染まっていて、聞き入れなかった。儀式を行うと、レインボー・ダイヤモンドの力が削がれ、自分たちの繁栄がなくなると考えたの」 クレリックが憤慨したのか、「そんな……!」と眉を歪めた。 「だから、モーダ・メーネは強硬手段に訴えた。……ファン・タ・シー・キングダムに侵攻して、強制的に儀式を行おうとしたの。その時の祈りに応じて現れた○リキュアが、私たち三人。それが、数百年前の真実」 肩をすくめて、聖が言った。 「……もっとも、あたしたちがその真実を知ったのは、だいぶ後になってから……賢が『ある事実』に気づいて、あたしたちがターノ・シー女王を締め上げ……」 ここで聖は咳払いをして、言い直した。 「女王を問いただした時なんだけどな」 巫が言った。 「ターノ・シー女王は、一冊の秘伝の本……古代からの伝承録を見せてくれたわ。今の、伝説の書の元になった本よ。その中に、今話したことが書いてあったの」 「そうだったんだ……」と、エミィが呟いた。 ナイトが聞いた。 「賢さんが気がついた『ある事実』って?」 「ファン・タ・シー・キングダムに攻め込んできていたのは、ミミックモンスターと、ジャ・ヨクボーグ。でもね、他の地域では出現していたのは、ミミックモンスターと、ヨクボーグだったの。ジャ・ヨクボーグが現れているのは、ファン・タ・シー・キングダムで、だけだったの。だから、おかしいと思って、ターノ・シー女王を締め上げ……」 ここで賢は咳払いをして、言い直した。 「問いただしたのよ」 ナイトたち六人の間に生まれた微妙な空気を無視して、賢は話を続けた。 「それを知った私たちは、儀式を行うべきだと考え、モーダ・メーネに講和を申し入れようとした。でも、私はその先にあることを知ったの」 ウィッカが聞いた。 「なんですか、『その先にあること』って?」 少し置き、息を整えてから、賢は言った。 「このまま儀式を行っても、同じ事が繰り返されるだけ。人々の思いがレインボー・ダイヤモンドに力を与え、バランスが崩れる。ヨクボーグがレインボー・ダイヤモンドを安置しているファン・タ・シー・キングダムでジャ・ヨクボーグに進化したように、おそらく他の地域のヨクボーグもジャ・ヨクボーグに進化して、出現する。そして、ジャ・ヨクボーグはさらに別のものに進化する。おそらく次は、願いが叶わぬ事に失望する、失望の怪物に……」 巫が言った。 「事実、ヨクボーグを操っていたカーナ・シー・エンパイアでも、それは制御不能になり、ジャ・ヨクボーグとなって、暴走を始めていたそうよ」 聖が言った。 「で、あたしたちは相談して、あることを実行した」 うなずき、賢が言った。 「レインボー・ダイヤモンドをいくつかに分割して、そもそものエネルギーのキャパシティを引き下げること。私たちは三分割を考えていたけど、なぜか、七つになったの。それが」 ナイトが言った。 「七つのホープ・ジュエル……」 「ええ。あの遺跡にあった七本の石柱、おそらくあれが、レインボー・ダイヤモンドを七つのホープ・ジュエルに分割したのね。そして私たちは、自らをエネルギーに変えて、ホープ・ジュエルを封じた」 「……え?」と、ナイトたちが怪訝な表情になる。巫が言う。 「そのままではホープ・ジュエルは引き合って、レインボー・ダイヤモンドに戻ってしまうから。だから、一つにならないように、私たちがシールドになったの」 ナイトが驚愕の表情で言った。 「そんな……! 怖くなかったの……? 自分たちが、その……この世界からいなくなること……?」 柔らかい笑みで、賢は言った。 「怖かったわよ? でもね、そのまま放っておいて、世界が滅ぶ方が、もっと怖かった。考えてみて? 自分の大切な人が、苦しむのを。だから、迷いはなかった」 聖も巫も晴れやかな笑顔だ。自分たちは、戦う中で、多くの人と知り合い、絆を育んだ。その絆が、どこの何者とも知れぬ彼女たちを、『本当の戦士』にしたのだ。賢はそう思っている。 ○リキュアたちが涙ぐんでいる。ナイトなどは、瞳から涙をこぼして、グシュグシュと鼻をすすっている。 巫は言った。 「封印している間に、ある変化があったわ。ホープ・ジュエルに私たちの……○リキュアのエネルギーが流れ込んだの。だから、私たちは変身能力を失い」 エミィが言った。 「私たちが○リキュアになった……」 聖が言う。 「でも、インディゴ・サファイヤはあたしが、バイオレット・アメジストは、人間界に来る前に賢が握りしめてたから、力がこっちに流れて、その二つには○リキュアを生み出す力はないと思うけどね。もっとも、ホープ・ジュエル一つの力が流れたぐらいじゃ、あたしたちも○リキュアになれない。力が使えたのは、七つのホープ・ジュエルがここに揃っていたからさ」
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