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| そして、金曜日。 エミィが見る限り、昼休みが終わってから、夢華の様子がおかしい。まさに「心ここにあらず」という言葉がぴったりするような状態なのだ。
 英会話の若き教師、石下(いしげ)尚美(なおみ)(本人曰く「ユメ中のクレバービューティー」)が言った。
 「じゃあ、次の設問を……。ミズ夢華」
 「……」
 「夢華さん?」
 「……」
 「岸さん!」
 「!? うわぅっ!? はいぃ、何ですか、先生!?」
 弾かれたように夢華が立ち上がる。
 「テキスト三十九ページの設問です。それに対する答えを言いなさい」
 ちなみに設問の内容は「What do you be proud of in your city?」……「あなたの街の誇れるところは何ですか?」だ。だから、隣に座っているという利点を使って、こっそり答えを教える、といったことが出来ない。
 「えーと……」
 と、夢華が教科書とノートを見て、満面の笑顔を浮かべ、答えた。
 「X=5、Y=3の時のみ、解となります!」
 「……。夢華さん、サブテキスト十ページ、十一ページの詩を暗唱してきなさい。来週月曜日の授業で、チェックします!」
 尚美は笑顔だったが、そのこめかみに青筋が浮かんでいた。
 
 放課後。
 「はあぁぁぁあううぅぅぅ〜」
 中庭のベンチに座って、夢華は大きい気を吐いた。
 エミィは、心配になって聞いた。
 「ねえ、夢華、なんかあったの? 午後から、おかしいよ? 六時間目の体育も、跳び箱に突進してたし」
 「うん、ちよ〜っとね……」
 と、夢華は空を見上げる。
 その時、愛望がやってきた。
 「どうしたの、二人とも?」
 エミィが見上げた。
 「ああ、愛望先輩。なんか夢華、変なんです」
 すると愛望が夢華を見て、しばらく何かを考えて。
 そして、柔らかい笑みを浮かべて、言った。
 「夢ちゃんの気持ちを、優先してもいいと思う」
 「え?」
 と、エミィはまた愛望を見た。愛望は柔らかな笑みのまま、言った。
 「相手のことを考えるのも大事だけど、やっぱり夢ちゃん自身の気持ちが大切なんじゃないかな?」
 夢華が愛望を見上げる。
 「愛望先輩……」
 そして。
 明るい笑みを浮かべて言った。
 「わかりました! とりあえず、会うだけ会ってみます!」
 「そう」
 と、愛望もうなずいた。
 エミィには何が何だか、さっぱりだ。
 「あの、夢華、愛望先輩? 私にも説明、してもらえますか?」
 夢華がエミィと愛望を交互に見る。そして、頬を真っ赤にして。
 「じ、じじじじじ実は、さ……」
 と、語り始めた。
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