女王マーブ・シーは、かつてホープ・ジュエルがセットしてあった、人の身の丈のおよそ二倍あるような、クリスタルの円盤を見上げた。そして、あの日のことを思い出す。
「女王様、早く待避を!」 侍従の一人が駆け寄ってくる。そしてそのまま、クリスタル盤を見上げる。 「きゃつら……カーナ・シー・エンパイアの者どもの狙いは、このホープ・ジュエルにございます!」 「なんですって!?」 マーブ・シーはクリスタル盤を見上げる。このホープ・ジュエルは、ファン・タ・シー・キングダムの至宝だ。この輝きと波長が、キングダムのみならず世界に穏やかな調和をもたらしていることを感じる。これを奪うということは、その調和を乱すということ。それとも。 「あの伝説を実行しようとしているの?」 このホープ・ジュエルには、ひとつの言い伝えがある。
七つの力を一つに合わせると、失われた何かを復活させることが出来る。
真偽のほどは定かではない。これまで実行したものが皆無だったし、何より。 数百年前にも、カーナ・シー・エンパイアが襲撃してきたことがあったという。その時、伝説の戦士・○リキュアが現れ、退けたというが、その時の混乱で、ファン・タ・シー・キングダムの王家に代々伝えられてきた魔法の一部が、失われてしまったのだ。 もしかすると、その失伝してしまった魔法の中に、ホープ・ジュエルの力を合わせる秘法があったのかも知れないが、もはや確認が取れない。 あるいは「伝説の書」と呼ばれる、一群の古伝書がある。この中に、その秘伝があるのかも知れないが、その中の一冊は、封印がかかっていて、誰にも読むことが出来ない。読むことが出来る書には、そのような記述はない。もし秘伝として伝えられているとしたら、その封印された書にあるのだろうが、だとすると、やはり確認のとりようがない。 「……○リキュア……」 あの当時は、どうして現れたのだろう? 祈りか? 魔法か? ひょっとして、失われた魔法の中に、○リキュアを召喚するものがあったのか? そう思っていると、クリスタル盤を設置している「聖なる部屋」の空間、その一角が歪み、何者かの「影」が現れた。 「……カーナ・シー・エンパイア皇帝、オサキ・マックラー!」 その影を睨む。影の名は、オサキ・マックラー・カーナ・シー、カーナ・シー・エンパイアの今上(きんじょう)帝(てい)だ。 『ホープ・ジュエルを渡せ』 「何をするつもりなのです、狼藉者の頭領よ!?」 一応、問うてみる。 『真実を知らぬ、うつけ者に話す必要はない』 「真実ですって?」 この男は、一体、何を言い出したのか? 首を傾げると、影から、「波」が押し寄せてきた。これは、ある種の転送波だろう。直接ここに乗り込むつもりなのだ。ここには結界があるから、簡単には入れないだろうが。 そう思っていたら、その「波」が結界に干渉するのがわかった。 「……バカな……!」 この結界は、ファン・タ・シー・キングダムの王家に伝わる魔法の中でも、秘伝に属するもの、易々と破れるはずはない! もしや、カーナ・シー・エンパイアの魔法技術は、ファン・タ・シー・キングダムを越えたのだろうか? やがて、結界にほころびが生じ始めた。その時! 「お母様!」 声が飛び込んできた。 「キララ!」 王女の、キララだった。キララが何かの呪文を詠唱する。すると、「波」が逆流し始めた。 『うぬ?』 オサキ・マックラーが眉をひそめる。 「キララ、いつの間に、そのような高等呪文を……!」 驚いた。今、キララが唱えた呪文は、マーブ・シーでも、常に成功するとはいえないほどの高等魔法なのだ。 「初めてうまくいったわ!」 そう言って、キララが次なる呪文の詠唱を始める。相手を強制退去させる魔法だ。これもかなりの難度だ。これについては、マーブ・シーの方が熟練している。ともに呪文の詠唱を始めた時。 『……!』 オサキ・マックラーが何かの呪文を唱えた。次の瞬間!
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