とりあえず、九谷たちが作業をしている時だった。誰かが倉庫に飛び込んでくる。振り返ると。 「……津沢」 家に帰って寝る、と言っていた津沢だ。そして、隣にいるのは、おそらく身支度をする前に連れ出されたと思しき、脚本の白井。 津沢は、走ってきたらしく、肩で息をしている。 「九谷さん、いいか?」 「……ああ。どうした?」 返事がちょっとぶっきらぼうになったのは、朝方のやりとりを引きずっているからだ。 「気づいたんだ、ちょっと、脚本を変えればいいんじゃないかって!」 「脚本を変える?」 「ああ。キング・ジャイアント、最初は、等身大のバラバラの状態で、地球にやってくる、そしてそれが、人の手によって、組み立てられていく。……この修繕の様子を、そのままキング・ジャイアントの組み立てのシーンにするんだ!」 スタッフの誰かが「なるほど」と、呟いた。 「そうすれば、時間を有効に使える。で、最後、○リキュアたちの正体だけど!」 彼女たちの正体については、宇宙防衛隊の隊員ということになっている。そのシーンは未撮だが。 「夢を護る、夢の国の戦士、ってことに出来ないかな!?」 「……はあ? 何言ってんだ、お前?」 「だからさ、キング・ジャイアント自体が、歪んだ夢の形なんだよ! それを正しい形にするために彼女たちが戦うんだ!」 「……俺は別にかまわんが」と、九谷は白井を見る。白井が、ボサボサの頭をかきながら言った。 「僕さ、随分前なんだけど、あることで失望されて、町をフラフラしてたことがあるんだ。でも、突然、希望を取り戻した。その時、確かに見たんだ、○リキュアたちを。……誰にも話したことないけど。だから、今回、九谷ちゃんが映画で○リキュア出すって聞いた時、真っ先に考えたんだ、彼女たちを、夢を護る、夢の戦士にしようって」 誰かが言った。 「それで行きましょうよ、九谷さん!」 「私もその方がいいわ!」 次々に、賛同の声が上がる。 九谷は。 「わかった。白井さん、それで、台本(ホン)、直してくれる?」 白井が笑顔でうなずく。次に九谷は。 「えっちゃん、キャストに、台本の直しが入るから、都合の付く人は今日の夜、来てもらうように伝えて! それから、樫田! 修繕を組み立てのシーンにするから、それらしいプロップ、考えて作れ! 大至急だ!! はーしーもーとー!! 突っ立ってないで、残りのスケジューリング、組み直せ!!」 現場が活気づいていった。
皇妃テーヅ・マリーが、錬金術のための研究室にいると。 「殿下!」 と、若き近衛隊長のココ・ロォレターがやってきた。 「どうしたの、ココ?」 いつもは冷静で、「氷の女」と評されることもあるココが、妙に取り乱している。それにちょっとした不安を抱きながら、テーヅ・マリーは聞いた。 「陛下が、オサキ・マックラー陛下が、お倒れに!」 「……なんですって?」 テーヅ・マリーは、駆け出した。
寝台に横たわるオサキ・マックラー皇帝は、大事ないようだった。 「すまんな、心配をかけて」 「いいえ、大事ないようで、安心しました」 心からそう言うと、オサキ・マックラーは右手を伸ばし、テーヅ・マリーの右の頬を撫でる。テーヅ・マリーが右手でその手を取り、軽く握って頬ずりした。 「……歪(ひず)みが、さらに進行している。もう、猶予はないかも知れぬ」 「……」 「一刻も早く、ホープ・ジュエルを七つ揃えねばならん」 「……わかりましたわ。陛下はご心配なく。それは私の役目です」 「お恐れながら」 と、ココが言った。 「それは、臣(しん)の役目。是非、わたくしめに!」 テーヅ・マリーは言った。 「近衛隊長のあなたが、何を言うの? あなたには、陛下の護衛という任があるはずよ? それを放棄するつもり?」 責めるでもなく言うと。 「そのお役でしたら、一時的に、アキラ・メータに委譲いたします。あの男、真の武人にございますれば、二心(ふたごころ)はないものと、推量いたします」 ややおいて。 「わかりました。今度は、あなたに任せます」 ココが深々とお辞儀した。
(ファンタシーサガ ○リキュア・しょの9 了)
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