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作品名:ファンタシーサガ ○リキュア! 作者:ジン 竜珠

第68回  
 市内、某倉庫。
 朝早く、九谷(くたに)が倉庫に飛び込む。
「キング・ジャイアントの着ぐるみが壊れた、って!?」
 中にいた十数人のスタッフが困惑の表情を浮かべる。
「ゆうべの地震でいろんな機材が倒れて。そのせいだと思うんですけど」
 九谷は壊れてしまった着ぐるみを見る。この夏に、市内で開催される映画祭に出品する予定の短編映画で使う、着ぐるみだ。ある日突然、町に巨大ロボットが現れ、暴れる。それを、謎のヒロインが倒す。そのヒロインは今、町で噂になっている○リキュアだった。そして彼女たちの正体は……。
 そんな内容の映画だ。
 正直なところ、ストーリーらしいものはない。「オチ」である○リキュアの正体についても、宇宙から来た宇宙防衛隊の隊員だったという、安直なものだ。脚本担当の白井には、ある種のアイディアがあったらしいが、「難しいことは考えず、アクションとスペクタクル重視でやる」という九谷の鶴の一声で、却下された。
 九谷はバラバラになった着ぐるみを見る。
 その時、スタッフの一人、津沢(つざわ)がやってきた。
「もう、諦めようぜ、九谷さん」
「津沢、お前……」
 九谷と津沢は、大学からの付き合いだ。だからそろそろ十年になる。
 津沢がシニカルな笑みを浮かべて言った。
「だから、言ったろ、こういう複雑で時間のかかる道具とかが必要なSFじゃなくて、青春ものにしようって。今から着ぐるみ直して、撮影なんて、無理だよ」
 九谷が詰め寄った時。津沢が何かのスイッチが入ったように、叫んだ。
「他のみんなは知らないよ! だがな、俺はこの映画祭に賭けてるんだ! 何年も何年も頑張ってきて! この映画祭でいい評価が得られたら、中央でも認められる! これまでの例がそれを証明してる!」
 そして、ため込んだ息を吐く。すると、九谷も言った。
「俺もそうだ! いや、誰一人、いい加減な気持ちのヤツなんかいない! スケジュールがギリギリの今、俺だって! 俺だって悔しいんだ! 例えでも何でもなく、絶望さえ、感じてるんだ! 俺だって、俺だって……!」
 あとは言葉にならなかった。
 それを聞き、肩をすくめ、津沢は言った。
「帰って寝るわ。もう、ダメだよ、この映画」
 そして、津沢は帰っていった。


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