夜のオフィス。 青年は、書類を眺めて、何度目かになるため息をついた。 「よう」 その時、先輩社員がやってきた。 「ああ、先輩」 先輩社員は両手に缶コーヒーを持っている。そのうちの一つを青年の前に置いて、言った。 「残念だったな。そのプラン、俺も絶対に行けると思ったんだが」 青年はプルタブを引いて、言った。 「俺、これに賭けてたんです。命削って、死に物狂いでこのプラン、仕上げたんです。……なんか、疲れちゃいました」 コーヒーをすすると、先輩社員が言った。 「すまんな、俺が力になってやれたら良かったんだが。俺、企画事業部長に睨まれてるから」 「気にしないでください、先輩。要は、俺がここに必要とされてない、ってことなんで」 「おいおい!」 と、先輩社員が仰天したように言った。 「誰もそんなこと、思ってないって!」 「ありがとうございます。……俺、故郷(くに)に帰ります」 「おい、頭冷やせ!」 先輩社員が、詰め寄る。 「いいんです、先輩。俺、もう決めましたから」 そして、コーヒーを一気に喉に流し込んだ。
クーキョンは謁見の間から出て呟いた。 「愚か者の石は、頻繁に生成出来ないから、っていつも通りのゼツボーグ。あーあ、私もアルノミーの方がいいなあ」 クーキョンが人間界へ出発しようとした時。 「クーキョン様」 と、アキラ・メータがやってきた。アキラは今、皇妃テーヅ・マリーの侍従および警護の任についている。 「どうしたの、アキラ?」 アキラは周囲を見渡す。誰もいないのを確認するかのように。誰もいないと判断し、アキラは言った。 「我が故国・ムーナ・シー・ハイランド崩壊の件について、お耳に入れたいことが」 クーキョンやアキラの故郷であるムーナ・シー・ハイランドがあった高地は、七年前、突如として崩壊した。当時、まだ七歳だったクーキョンはアキラに助けられ、流れ流れて、ここカーナ・シー・エンパイアに身を寄せることになったのだ。 「……あれは、災害でしょ? 今さら、何がわかったの?」 うなずき、アキラは言った。 「まだ、断片でしかありませんが……」 アキラは耳打ちする。 「……本当なの、それ?」 衝撃が胸をえぐる。 「それが本当なら……! アキラ! 私を鍛えて! 力を、何者をも打ち倒す力が欲しいの!!」 「クーキョン様、それはわたくしめのお役でございます。クーキョン様は、これまで通り、世界を闇色に染めて、ホープ・ジュエルの輝きを見つけてくださいませ」 怒りで身が震える。故国を、友を、そして親を奪ったのが、災害ではなかったとしたら……! 「……わかったわ、アキラ。でも」 と、アキラが腰に佩(は)いた剣を抜く。とっさのことで、アキラも対応出来ず、驚いている。 「この剣、借りるわよ!」 ややおいて。 「かしこまりました。ですが、その剣はクーキョン様の手には余ります。別の剣をご用意いたします」 クーキョンの手から剣をとり、アキラは鞘に収めた。 うなずき、クーキョンは言った。 「必ず、ホープ・ジュエルを集めるわ……! カーナ・シー・エンパイアのためじゃなく、私の……私たちのために……!」 決意を新たにした。
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