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作品名:ファンタシーサガ ○リキュア! 作者:ジン 竜珠

第60回  
 夜のオフィス。
 青年は、書類を眺めて、何度目かになるため息をついた。
「よう」
 その時、先輩社員がやってきた。
「ああ、先輩」
 先輩社員は両手に缶コーヒーを持っている。そのうちの一つを青年の前に置いて、言った。
「残念だったな。そのプラン、俺も絶対に行けると思ったんだが」
 青年はプルタブを引いて、言った。
「俺、これに賭けてたんです。命削って、死に物狂いでこのプラン、仕上げたんです。……なんか、疲れちゃいました」
 コーヒーをすすると、先輩社員が言った。
「すまんな、俺が力になってやれたら良かったんだが。俺、企画事業部長に睨まれてるから」
「気にしないでください、先輩。要は、俺がここに必要とされてない、ってことなんで」
「おいおい!」
 と、先輩社員が仰天したように言った。
「誰もそんなこと、思ってないって!」
「ありがとうございます。……俺、故郷(くに)に帰ります」
「おい、頭冷やせ!」
 先輩社員が、詰め寄る。
「いいんです、先輩。俺、もう決めましたから」
 そして、コーヒーを一気に喉に流し込んだ。

 クーキョンは謁見の間から出て呟いた。
「愚か者の石は、頻繁に生成出来ないから、っていつも通りのゼツボーグ。あーあ、私もアルノミーの方がいいなあ」
 クーキョンが人間界へ出発しようとした時。
「クーキョン様」
 と、アキラ・メータがやってきた。アキラは今、皇妃テーヅ・マリーの侍従および警護の任についている。
「どうしたの、アキラ?」
 アキラは周囲を見渡す。誰もいないのを確認するかのように。誰もいないと判断し、アキラは言った。
「我が故国・ムーナ・シー・ハイランド崩壊の件について、お耳に入れたいことが」
 クーキョンやアキラの故郷であるムーナ・シー・ハイランドがあった高地は、七年前、突如として崩壊した。当時、まだ七歳だったクーキョンはアキラに助けられ、流れ流れて、ここカーナ・シー・エンパイアに身を寄せることになったのだ。
「……あれは、災害でしょ? 今さら、何がわかったの?」
 うなずき、アキラは言った。
「まだ、断片でしかありませんが……」
 アキラは耳打ちする。
「……本当なの、それ?」
 衝撃が胸をえぐる。
「それが本当なら……! アキラ! 私を鍛えて! 力を、何者をも打ち倒す力が欲しいの!!」
「クーキョン様、それはわたくしめのお役でございます。クーキョン様は、これまで通り、世界を闇色に染めて、ホープ・ジュエルの輝きを見つけてくださいませ」
 怒りで身が震える。故国を、友を、そして親を奪ったのが、災害ではなかったとしたら……!
「……わかったわ、アキラ。でも」
 と、アキラが腰に佩(は)いた剣を抜く。とっさのことで、アキラも対応出来ず、驚いている。
「この剣、借りるわよ!」
 ややおいて。
「かしこまりました。ですが、その剣はクーキョン様の手には余ります。別の剣をご用意いたします」
 クーキョンの手から剣をとり、アキラは鞘に収めた。
 うなずき、クーキョンは言った。
「必ず、ホープ・ジュエルを集めるわ……! カーナ・シー・エンパイアのためじゃなく、私の……私たちのために……!」
 決意を新たにした。


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