その時だった。 「○リキュア!!」 少女が叫ぶ声がした。ナイトはどうにか体を起こして、その方を見る。十数メートル先に、三人の少女がいる。 「……いけない、ここから、逃げて……」 振り絞った声が、届いたかどうか。 少女たちは手に手に、何かを持っている。それは遠目には、透明なカードに見えた。 「これを使いなさい!」 そして、こちらへ投げてきた。そのカードのようなものは、正確にナイトたちのもとに届く。それを手にした瞬間、情報が流れてきた。 「……これは……!」 驚きとともに、カード……透明なページを見る。五人はうなずき合い、痛みをこらえて、立ち上がった。そして。 ナイトは言った。 「光の章! 聖なる刃(やいば)!」 ウィッカが言った。 「智恵の章! 聖なるきらめき!」 クレリックが言った。 「召喚の章! 聖なる指!」 アーチャーが言った。 「雷(いかづち)の章! 聖なる矢!」 ダンサーが言った。 「舞の章! 聖なる瞳!」 五人の声が揃う。 「○リキュア、クィンクエ・ペタルム!」 五人の光が集まり、五芒星に似た桃色の光を持つ花になる。そしてその花がゼツボーグに重なり、回転する。その光に包まれ、ゼツボーグが消滅した。 「……なんなの、これ……!?」 憎々しげに言って、アイ・スクリームが三人の少女の方を睨む。だが。 「……いない!? どこへ……!?」 しばらくあちこちを見ていたが、やがて舌打ちをして、姿を消した。 「なんとか勝てたね……」 そう呟き、ナイトはスクエアミラーを見る。だが。 「……あ」 挿し込んだページは、ヒビが入り、やがて、空気にかすむように、消え去った。 「やっぱり、今の君たちじゃ、使いこなせないか」 不意に、声がした。振り返ると、さっきの少女たち。どこか物陰に隠れていたらしい。そして、この三人に、ナイトは見覚えがあった。 「あなたたち、夢ヶ谷市ですれ違った……!」 ボブヘアの少女がうなずく。 「あの時は、全然、わからなかった。私たち、ほぼ普通の女の子だから」 そして、他の二人を見てから言った。 「私の名前は、さとる、こっちは、ひじりで、こっちがかんなぎ。そして」 と、ナイトを見る。 「私たちは、○リキュアよ」 ナイトたちはしばらく反応出来なかったが。ウィッカが言った。 「まさか、伝説の……!」 三人がうなずいた。 さとるが言った。 「私の名前は○ュアウィズダム」 ひじりが言った。 「あたしの名前は○ュアパラディン」 かんなぎが言った。 「わたしの名前は○ュアシャーマン」 ナイトたちが絶句していると、ウィズダムが言った。 「もっとも、今の私たちに、○リキュアに変身する力はない。なぜ、数百年の時を超えて、私たちがここにいるのか、なぜ私たちが変身能力を失っているのか。すべてを話すには、あなたたちの準備がない。だけれど。……私たちはあなたたちを助けるために来た。これだけは言っておくわ」 ウィズダムが瞳に強い光を宿して言った。 ナイトは困惑するだけだった。
「先生、内崎さんが帰ってきました!」 ある看護師が、のぞみに伝える。 エントランスに行くと、少女・内崎咲子がいた。咲子は深々と頭を下げる。 「心配かけて、ごめんなさい。腕を切るって聞いて、私……」 「……いいのよ。誰だって、そんな話、聞かされたら動揺するもの」 「私、街をふらふらしてて、どこかでボウッとしてたらしいんです。そしたら、その時……」 ここで、咲子は言葉を止める。 「その時? ……何かあった?」 「……とても不思議なんですけど。暖かい『何か』に包み込まれるような感じがして、声が聞こえてきたんです」 「声?」 咲子はうなずいて言った。 「『諦めないで。腕一本で活躍している選手もいるのよ。だから、絶望しないで』……。とても柔らかくて、素敵な声でした」 澄み切った笑顔で咲子は言う。 「……そう」 のぞみの胸にも暖かいものがあふれる。その声の正体については詮索はすまい。その種の「メッセージ」について、ある医師に言わせると「その人間の潜在意識からのメッセージ」だそうだが、のぞみはそこまで合理的に考えなくてもいいと思っている。 今、街では怪物が暴れていて、その怪物を○リキュアという少女たちが退治しているそうだ。もしかして、その声の主は、○リキュアだったりしないだろうか? ひょっとしたら、彼女たちが戦う相手は、咲子のような人々が抱く絶望なのかも知れない。 ふと、そんなことを思ってみた。
(ファンタシーサガ ○リキュア・しょの7 了)
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