撮影を終え、夢華・エミィ・祈璃は帰路についていた。 時刻は午後三時。電車の中で、おしゃべりをしている。 「撮影前に話に出た内崎(うちさき)さん、お嬢さんが、ご病気なの」 祈璃が言った。 エミィが聞いた。 「病気、ですか?」 「うん。骨肉腫、っていってね。骨のガンって言われてるんだって」 ちょっとした衝撃が夢華の胸をつく。 「ガン、ですか……?」 「うん。右肩に出来ているそうなんだけど。検査の結果が思わしくなくて、もしかしたら、腕を切らなきゃいけないかも知れないって、この間、言ってたんだ」 エミィの表情が沈む。 「そうなんですか……」 うなずいて、祈璃は言った。 「私には想像出来ない。もし『腕を切ります』なんて宣告されたら、私だったら、絶望するだろうな」 夢華もエミィもうなずくしか、できなかった。
今日は、部活動だった。 学校からの帰り、友希は愛望と会った。 「愛望先輩」 「ああ、友希ちゃん。制服、ってことは。部活だったの?」 「はい。愛望先輩は?」 「私のお姉ちゃん、駅向こうの病院で看護師やってるの。忘れ物してるから、届けに行くところなのよ」 「そうですか。ご苦労様です」 駅向こうの病院というと、かなり大きい病院だ。ここからなら、バスに乗って、ちょっとした高台に上がることになる。 ちょうど友希の進行方向だ。なので、途中まで一緒に行くことにした。目抜き通りに来て、しばらく歩いた時だった。通りの向こうで悲鳴が聞こえた。 何だろうとその方を見ると。 「……ゼツボーグ……!?」 三階建ての建物の向こうに、巨体が見えた。 愛望が呟いた。 「……あんな巨大なゼツボーグ、初めて……!」 拳を握りしめ、友希は言った。 「先輩、行きましょう!」 「ええ!」 答えた愛望は、スマホで連絡を取り始めた。
行った先にいたゼツボーグは、体高が十四、五メートルありそうだった。白い体に、鎧兜、顔にあるのは、三つの黒い穴。二つは目で、一つは口のようだ。そして黒い目の穴からは、黒い涙のようなものが、絶えず流れている。ゼツボーグの右腕はラケットになっていた。 『ゼツボォォォォォォォォォグ・アルノミィィィィィィィィィ!』 咆哮とともに、ゼツボーグが右腕を振り上げる。ガットの中心に黒い影が浮かび、シャトルコックになる。そして、腕を振り下ろすと、シャトルコックがミサイルのように撃ち出され、アスファルトの地面に激突して、爆発する。着弾点から、闇が急速に広がっていった。 「お待たせ!」 夢華たちが駆けつけた。ちょうど、駅舎を出たところで、連絡が来たのだという。 ゼツボーグを見上げ、友希たちはスクエアミラーを構えた。
のぞみがコーヒーを飲んでいると、携帯に電話がかかってきた。 「……祐理愛? あの子、今日は夜勤だったわよね、どうかしたのかしら……? 愛望が忘れ物を届けに行ってたけど? ……もしもし?」 『あ、お母さん!? あの子……内崎さんの姿が見えないの!』 「……なんですって!?」 『朝から、様子がおかしかったらしいんだけど! 今あちこち、探したんだけど、院内には、いないかも!』 「わかった! お母さんも、すぐに行くわ!」 電話を終え、のぞみは出かける準備をした。
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