「じゃあ、算数の教科書の六十ページ、開いて」 賢(さとる)は、子どもたちを前に言った。ここは、島の小学校。賢はここで夏休みの間、塾を開いている。相手は、小学三年生から六年生。今は三年生の時間だ。机についているのは男女三人ずつで六人。これで全員だ。 「さとる先生!」 と、一人の男子が挙手した。 「なに、よしきくん?」 「よしき」と呼ばれた男子が言った。 「この前の男の人だけど」 「この前の?」 「さとる先生たちが、船から運んでた人」 承平のことだ。 「彼が、どうかした?」 「この間、ひじりさんと浜辺で、一緒にいるとこ、見たけど、二人は恋人同士なの?」 すると、ある女子が言った。 「それ、私も見た! ねーねー、あの二人、つきあってるの!?」 途端に、教室が騒がしくなる。この、マセガキどもが、と思いながら、賢は言った。 「人にはそれぞれ事情があるから、そういうことは詮索しないの! わかった?」 そう言った時、男子が一人いないのに気づいた。どこへ行ったか、と思った瞬間、賢が穿いている白いプリーツスカートがまくり上げられるのを感じた。 「白!」 声がするのと同時に、賢は、その不届きな男子の襟首をつかんだ。目にもとまらぬ早業で、スリーパーホールドをかける。自分でも「冷たい」と思う笑みを浮かべて、賢は言った。 「この前言ったよなあ? またやったら、今度は『オトす』って?」 男子がジタバタする。本気でオトしてやろうか、なんて思っていると。 「……賢、じゃれ合ってるとこ悪いけど、いいかい?」 廊下から、聖の呆れたような声がした。 「……命拾いしたなあ、こうじ?」 男子の耳元でささやくと、男子を離し、聖のところへ行く。 「……さっき、箱が帰ってきた」 「……!」 「今、巫が読んでる」 「そう」 そして。 「はーい、みんなー! 今日はおしまーい!」 一同が不満そうな声を上げる。「こうじがスカートめくったからですかー?」という質問には「違う」と答え、賢は言った。 「ちょっと急用が入ったの。ひょっとしたら、先生、しばらくお留守にするかも知れないけど、ちゃんと自習しときなさいよ! 宿題、出しとくからね!」 また、不満の声が上がった。
民宿の一室に帰ると、巫が箱の前で正座し、静かに精神統一をしていた。 どれほどの時間が過ぎたか。 やがて、目を開いた巫は言った。 「この箱を流し返したのは、マップ・ホルダーよ」 賢は聖と顔を見合わせてうなずく。そして言った。 「ホープ・ジュエルの所在は?」 「この箱の情報だけじゃ、よくわからない。ただね? マップ・ホルダーの他に四人の女の子がいるわ。……そして、その五人が、○リキュアよ」 賢も聖も息を呑む。そして賢は言う。 「これ、私の仮説。おそらくホープ・ジュエル七つの内、五個はその子たちが持ってるわ」 巫が言う。 「この間、話していた仮説ね?」 「うん。となると、ホープ・ジュエルは、あと二つ。ほかに二人の○リキュアがいないとしたら、どこかにあることになる。マップ・ホルダーがまだサガせていないとしたら、マップ・ホルダーが未熟か、マップが不完全ってこと。マーブ・シー女王は、マップが壊れているって言ったから、多分、マップのパーツが揃ってないんだわ」 聖が言った。 「じゃあ、早く……!」 賢はうなずいて言った。 「カーナ・シー・エンパイアも動いている。まずは五つのホープ・ジュエルを、必ず護らないとならないわ。そのためには、私たちも○リキュアたちをサポートしないと!」 聖が立ち上がる。 「大将に、すぐ船を出してもらうように言ってくる!」 うなずき返し、賢は言った。 「今の私たちに、戦う力はない。それでも、全力で彼女たちをサポートしましょ!」
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