夢華は、今日はエミィと、祈璃のスタジオ見学に行くことになっている。東にある街に、近隣では最も大きなスタジオがあり、遠方からも撮影のために人が訪れるそうだ。中央からのロケが来る時などは、このスタジオが撮影のステーションに使われるという。 日曜日ということもあって、利用者が多いということだが、祈璃の場合、常連であり、フォロワーも多く、しかもいずれプロデビューすることが決まっているということから、優先的にスケジュールを押さえさせてもらっているという。 「本当は、いけないんだけどね」と、女性事務員が苦笑を浮かべて言っていた。 「祈璃さん、あの緑色の一角、なんですか?」 「ああ、あれは、クロマキーだね」 ちょっと考えて、夢華は思い出した。 「ああ、昔、プロ野球球団にいたっていう、外国人選手の人? おじいちゃんから、聞いたことある!」 どこかで誰かが「それ、クロマティな」と言うのが聞こえた。 「? 夢華が何のこと言ってるのか、さっぱりわからないけど。あれは、背景を合成する仕組みだよ」 「背景を合成? ……え!? もしかして、背景って、合成だったんですか!?」 驚いたからか、よくわからないが、祈璃はちょっと苦笑いを浮かべて言った。 「……もしかして、夜の都会をバックに道路で歌ってたの、アレ、マジだと思ってた?」 夢華は何度もうなずいた。 「……ああ、そうなんだ」 そして背景の合成について話していると、一人の若い男性がやってきた。 「祈璃ちゃん、今日は僕が仕切るから、よろしくね」 「ああ、かのさん」 と、祈璃は笑顔で言う。 「今日は、うちさきさんは、お休みですか?」 「かの」という若い男性はうなずいた。 「お嬢さんが、ちょっとたいへんらしくて」 「……たいへん、って、やっぱり……」 かのはうなずいた。 「温存は無理かも、ってことらしい」 正直、夢華の知らない話になったので、ふと、エミィを見る。エミィは、トートバッグの中を見ていた。 「どしたの、エミィ?」 「うん」と、エミィは小声で答えた。。 「ちょっと前から、ウッキュー、ちょくちょく眠ってるの」 「……もしかして、なんかの病気とか?」 心配になって、夢華もバッグの中をのぞき込む。すやすやと、ウッキューは眠っていた。 「それは違うみたいなんだけど。ある種のパートナーアニマルとか、モンスターは、成長期によく眠ることがあるから、ひょっとしたらそれかも知れないけど」 そうは言いながらも、エミィは心配そうだ。そもそもウッキューは、エミィが人間界に来た時、一緒にいたのだという。一人で心細かったエミィに、まるで寄り添うようにいてくれたことから、エミィはウッキューのことを心の友と思っているところがあるようだった。 「大丈夫だよ! 多分、成長期!」 エミィが少し弱気の笑みで「きっと、そうだね」とうなずいた。
|
|