承平がいるのは、どこだろうか? 海の上にたゆたっているようでもあり、宙に浮いているようでもある。辺りは暗いのか、明るいのか、よくわからない。一寸先が見えないようでもあり、はるか先まで見通せるようでもあり。 考えるのをやめて流されていると、不意に、目の前、数メートルのところに、淡い光が現れた。その光は楕円形になり、やがて、その中に一人の女性を浮かび上がらせる。 女性は、十五、六歳ぐらいだろうか? 着ているのは、まるでファンタジーRPGに出てくるお姫様のようだ。 「………………」
え? なんだって?
「………………」 女性の口は動いているが、言葉が聞こえない。
だから、何言ってるの?
「…………きて」
え? なんだって? 「……わたしが…………しいから。だから、…………げて。………………きて」
ごめん、よく聞こえない。 「………………」
やがて、女性の姿が消え、光の渦が現れた。その渦はやがて……。
「……」 朝だった。天井から吊された蛍光灯は、点(つ)いたままだ。どうやら、消灯せずに寝転がり、そのまま眠ってしまったらしい。 ゆっくりと起き上がる。二度ほど頭を振る。 「……なんか、夢、見た気がする……」 夢を見たことはわかるが、内容はというと、思い出すことが出来ない。 伸びをして、立ち上がる。その時。 ある衝動が湧き上がってきた。 その時、階下からやってきた足音が、ふすまの前で止まる。 『承平、起きてるー? 朝飯、出来てるよー』 承平はふすまを開ける。 「おはよう、聖。ちょっと頼みがあるんだ」 「頼み?」 聖が首を傾げる。 「うん。……何か、描くものが欲しいんだ。スケッチブックと、色鉛筆でいいから!」 それを聞き、聖は笑顔になった。 「ああ! すぐ用意する!」
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