エミィはシェアハウスに帰ってきた。時刻は午前七時半。ほかのシェア友の朝食は済んでいるらしく、食卓の上にはエミィの皿だけがあった。 「お帰り、エミィちゃん。朝っぱらからお友達に呼びつけられるってたいへんだね」 キッチンから出てきたのは、ここのオーナーの娘の山背(やませ)貴奈(きな)、実質的な、ここの家主であり、リーダーだ。年は三十だという。エミィは魔法で、オーナーの親戚に思わせている。 「トーストとハムエッグでいい?」 「はい。ごめんなさい」 「いいっていいって。あ、スープはインスタントのやつがあるから、選んでね」 キッチンにある棚から、ポタージュのインスタントスープを一袋とると、ふとエミィは聞いた。 「そうだ、貴奈さん。例えば、一昨日まで、他の町に漂着していたものが、今日、この町に流れ着く、ってこと、ありますか?」 「え? なに、それ?」 トーストを入れ、オーブンのダイヤルを回した貴奈が聞き返す。だが。 「そうね。例えば、投棄する場所を変えたら、そうなる可能性はあるね」 「投棄する場所?」 「うん。海には海流っていうものがある。例えば、Aっていう場所から投棄すると、Bっていうところにつくけど、Cっていう場所から投棄すると、Dっていう場所に着いたりする」 「ふうん」 エミィは深皿に袋を開け、ポットの湯を注ぐ。 「で、その逆もある」 「逆?」 「内海(ないかい)みたいに閉じられたようなところじゃない場合、必ずしも、そうはならないけど。Dから投棄したら、海流に乗って回り回って、Aにたどり着くことも考えられるわ」 「そうなんだ……」 ふと、ある考えが、エミィの中に生まれていた。
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