夢華たちは、海を臨むことが出来る、オープンカフェに来ていた。 とにかく、今日は一日、夏を満喫するのだ。そもそもが、夢華の発案だ。 パラソルの下のテーブルは、木の板で作った(おそらくDIYだ)もの。白く塗り、そこに花が描いてある。別のテーブルには、パイナップルなどのフルーツ、虹など。 そして、今、夢華の前には、グラスに盛られた色とりどりのフルーツ。 「うほぉぉぉぉぉ! 実物だぁぁぁぁぁ!」 「………………瞳をハートマークにして、感激してるところ、悪いんだけど、それ、なに? ていうか、そのグラス……。……ミニバケツ?」 エミィが引きつった笑みで聞く。 「これ? ここのホームページにアップしてあったの! フルーツみつ豆・スペシャルバージョン・デラックスエディション! 規定時間内にミニゲームをクリアしたら、半額のチケットコードが発行されるんだぁ!」 と、スマホの画面を見せる。「¥」マークの下に「2」と入っていて、ほかにも飾りがあるが、要するに、半額ということを表示していた。 愛望も祈璃も、苦笑いだ。友希はあまり表情に出ていないが、これは彼女のデフォルトだ。友希がぼそっと言った。 「なるほど。だから、この街に来よう、と」 聞いていない夢華は、さっそくパクついている。 夢華がこちらにスマホを向けたのを見たからか、ふと、祈璃が自分のスマホを出して言った。 「私が前住んでたのって、ここと夢の木市を挟んで、反対側に同じぐらい、電車で行った市なんだけど。そこに民俗学で有名な人がいるんだ。その人が、市の地元のテレビ番組で言ってたんだけど。この街に、『ワニ姫様の伝説』っていうのがあるんだって」 夢華たちが、首を傾げる。愛望が聞いた。 「わにひめ?」 夢華は連想する。 「……ワニの、お姫様……」 祈璃が苦笑いを浮かべる。 「多分、夢華の想像、違うと思う。ワニって、古代の日本で、サメのことを言ったんだって。だから、ワニ姫も、サメのお姫様ってこと」 夢華はボヤくように言った。 「どっちにしても、ロマンチックじゃないよう」 「まあね」と言ってから、祈璃は言った。 「長いお話だから、端折るけど、要するに、鶴の恩返しの海バージョン。サメの正体を知られたお姫様は、海の底にある『綿津(わだつ)の宮(みや)』っていうところに帰って行っちゃうんだ。でもね、その時には子どもが生まれてて、毎年、夏になると、贈り物を子どもに贈ってたんだって。それでね?」 と、祈璃がスマホを操作する。
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