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作品名:ファンタシーサガ ○リキュア! 作者:ジン 竜珠

第35回   しょの5・1
 夏休みに入った。
 夢華たち五人は、西へ電車で四十五分の夢(ゆめ)ヶ谷(たに)市に来た。一つは、一時、元気をなくしていた友希を元気づけるため。もう一つは。
「すごいですよ、祈璃さん!」
 電車の中で、何度目かになる賛辞を夢華は口にする。愛望が笑顔でうなずく。
「ほんと。デビューはいつなの?」
 祈璃が恥ずかしそうに、答える。
「まだ、そこまでは。私、高校に進学するつもりだから、その辺りも考えて、中学在学中は、あまり大きなお仕事は入れないようにするって、プロダクションの人も言ってたし。当分は、今まで通りらしいから、本格的なデビューはもうちょっと先になると思う」
 祈璃のデビュー祝いだ。
 駅に着いた。海沿いにある駅舎は、木目のレトロ調で、どこか懐かしい。
 午前十時。日差しは高くから、夢華たちを迎えた。

 青年は、浜辺に座り込んで、海を見ていた。少女が声をかける。
「いたいた。……まったく、どこへ行ったかと思ったら」
 青年に近づき、次の言葉を言おうとした時、青年が海を見ながら言った。
「……なんで、止めたりしたんだ……?」
 その言葉に足を止め、少女は笑顔で答えた。
「いやあ、あんた、島じゃ見たことないから、よその人だろ? わざわざこの島まで来て、身投げしようとしている人、止めるッショ、人として!」
 青年は答えない。少女は言った。
「何があったか、なんて、聞かないよ? 言いたくなったら、話してくれればいいし、言わないまま、ここを出てってもいい。たださ、あんたが『誰にも知らせるな』って言った以上、あんたはあたしたちの『預かりの身』。だから、あんま変なことやらかすとか、心配とか、かけないでくれる?」
 やはり、青年は答えない。だから、少女は言った。
「……あんたには、いずれやらないといけない、『お役』があるんだってさ」
 ここで、初めて青年が少女を見上げた。その瞳には、生気というものがまったくない。だが、「お役?」と聞き返してきたから、多少は興味を抱いたのだろう。うなずいて、少女は言った。
「あたしのツレってさ、やたら頭が良かったり、勘が良かったりして、正直、ついてけないんだ。でも、いつも正しい!」
 そして、中天を見る。今日も快晴だ。再び、青年を見て、少女は言った。
「だからさ」
 カーキ色のカーゴパンツのポケットに手を突っ込んで。
 青年を見た。
「命、粗末にすンじゃないよ? 『お役』があるってことは、その命、誰かの、何かのために使わなきゃなンない、ってことだからさ。そもそもあたしらが、あんた見つけたのって、誰かに呼ばれたような気がしたからなんだ。誰かが、あんたを護ってやってくれって、言ってたんだと思うよ?」
 笑顔を向けてみる。青年の表情は動かない。その時。
「ひじりー! 大将が船、出すってー!」
 振り返る。今、声をかけてきたのは、えり足の真ん中を長くしたボブヘアの少女。聡明そうな顔立ちだ。その隣にもう一人の少女が立っている。こちらは腰まである髪をストレートにしていた。
「わかったー!」
 そう答え、イタズラっぽい笑みを浮かべて、少女は言った。
「じゃあ、あたしら、本土に買い出し、行ってくる。こないだは、出かける前にあんた見つけて、それどころじゃなかったからさ!」
 青年の眉が、ほんの少し、歪んだように見えた。それを見て、ちょっとだけ、そしてなぜか楽しく思いながら、少女は言った。
「ウソウソ! あんたのことは、大将の奥さん……民宿のおかみさんに、よーっく言っとくから、変な気、起こすんじゃないよ?」
 そして、その場を去りかけて。
「……そうだ、あたしのフルネーム、教えとく。鳥の鶴(つる)に、樹木(じゅもく)の樹(じゅ)、セイントの聖(せい)で、鶴樹聖(つるぎひじり)」
 そして、青年に背を向けた時。
「……しょうへい」
 ぼそっと、青年が何か言ったような気がした。振り返ると、青年は海の方を向いたまま言った。
「ビレッジの村に、越える、承(うけたまわ)るに、平たいで、村越承平(むらこししょうへい)」
 そのあとは、潮騒だけが聞こえていた。


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