祈璃の母・花枝(はなえ)は、買い物に出かけようと外へ出た。その時。 「ああ、校長先生」 家の前で、夢の木中学の校長・本田正子(ほんだまさこ)に出会った。 「おはようございます、鳳さん」 正子が笑顔で一礼する。 「この近くに来る用事があったものですから、寄らせていただきました。祈璃さんは?」 「今日は、Youtubeの撮影があるので、うちの人と一緒に隣町に行っています」 「そうですか」 「今日は一体……?」 正子は言った。 「先日のお話、祈璃さんが辞退を申し出てこられたので、いきなり押しかけるようで失礼とは思ったのですが、近くまで来たものですから、ちょっとお話ししたくて」 この言葉で、花枝にもわかった。うなずくと、正子は言った。 「やはり、前の学校のお友達・石杖(いしづえ)さんのことを……」 沈痛な思いで、花枝は言う。 「まびきちゃんは『祈璃のせいじゃない、気にするな』と言ってくれたんですが、祈璃が大けがの原因を作ったのは事実なので。あの時、祈璃は『ダンスを辞める』とまで言ってたんですが」 一呼吸置いて言う。 「私とうちの人で、止めました。やはり、祈璃が一生懸命、頑張ってきたことなので」 正子がうなずく。そして言う。 「実はまだ、先方にはお返事をしていないんです。先方が学校にも連絡を取ってきたのは、祈璃さんが中学生だという事に対する、配慮だと思いましたから。誠意のある方たちだと思いました」 花枝もうなずく。 「私たちも、出来たらあの子には新たな一歩を踏み出して欲しいんです」 その時。 「あれ? 校長先生?」 声がした方を見ると、そこにいたのは、橋を渡った先の岸家の娘、夢華だった。花枝は言った。 「ああ、夢華ちゃん」 「こんにちは、おばさん、校長先生」 笑顔でお辞儀をした夢華に答えると、夢華が聞いてきた。 「校長先生、こんなところで、どうしたんですか?」 「ちょっと通りがかったら、祈璃さんのお母さんと偶然出会ったので、おしゃべりをしていたのよ?」 「そうですか」と言って、再びお辞儀をし、夢華は帰って行った。その背を見送り、花枝は言った。 「実は、さっきも……」
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