スイーツショップ「ドリーム・エッグ」。ここは、市内の喫茶店やスイーツ専門店とも提携し、商品を開発・卸している。そこの若きパティシエ、朝比奈 紅実子(あさひな くみこ)は、悩んでいた。提携しているお店との関係は良好、今度の日曜日に、あるお店が「イベント」をするということで、それについても、打ち合わせは完了している。 彼女が落ち込んでいる理由。それは。 「先輩、あまり思い詰めない方が」 後輩の利都子(りつこ)が不安げな表情で言った。 「ありがとう、りっちゃん。でもね、もう時間がないの! 今度の全国スイーツコンテストまで! それまでに、あの味を、パリの師匠の、あの味を出したいのに……。どうしても出せないの!」 「先輩のスイーツ、十分、美味しいです!」 利都子の言葉に寂しげな笑みを返し、紅実子は言った。 「私、どうしても、あの味をものにしたいの。甘いんだけど、しつこくなくて、柔らかくて。心の底から幸せにしてくれる、あの味を! ……やっぱり、私には才能がないんだわ……」 「先輩、落ち込まないでください」 「ありがとう。……ちょっと、散歩してくるわね、気持ちを切り替えるために」 そして、紅実子は外に出た。
その頃、妖しい女が一人、街を歩いていた。カーナ・シー・エンパイアの三幹部の一人、アイ・スクリームである。 「まったく、皇女(こうじょ)ティア・ドロップ様にも困ったものだわ。『人間界のスイーツが食べたくなったから、買ってきて』って。私、小間使いじゃないんだけど。スクリームして(わめいて)やろうかしら?」 ぶつくさ言いながら、あたりを見ているときだった。とぼとぼと道を歩く一人の若い女性。それを見て。 「……ふぅん。いい色、出してるじゃない」 妖しい笑みを浮かべると、手のひらから、黒く濁った玉を出す。そして。 「おいでなさい、ゼツボーグ! 世界を闇色に染めなさい!」 その玉を女性に投げつける。すると、どうだ! 女性からも黒い玉が現れ、アイ・スクリームの投げた玉の中に吸い込まれていったではないか! そして、女性の玉が人型に変化し、アイ・スクリームの投げた玉が鎧に変化していった。 そして生まれたのが、怪物・ゼツボーグ。シツボーグの進化形だ。 身長七メートル、防具に身を包んだ、メカニカルな姿だが、右肩にカップに入った赤いゼリー、左肩にモンブラン、頭部はイチゴのショートケーキだった。 『ゼツボォォォォォォォォォグ!』 ゼツボーグが咆哮した。
とりあえず、日曜日にみんなしてイベントに行こう、となった時。 「うっきゅー!」 と、声がして、エミィの鞄からピンク色のドラゴンパピィが飛び出した。 「ちょっと、ウッキュー、勝手に出ちゃダメ!」 うろたえて、エミィがウッキューを鞄の中に押し返そうとしたが。 「ちょっと待って、エミィ。ウッキュー、どうしたの?」 愛望の声に、ウッキューが首飾りの無色透明の玉を外して差し出す。 「うっきゅー!」 玉から、同じく無色透明の涙滴形の結晶がたれる。それを見て、夢華が身を乗り出した。 「誰かが泣いてるのね!?」 「うっきゅー!」と、ウッキューがうなずく。 「どこ!?」と、夢華が聞く。それに応えるように、たれた涙滴が起き上がり、一方向を示す。 夢華が言った。 「みんな、行くよ!」 それに皆がうなずいた。
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