放課後。 夢華は、エミィ、愛望(めぐみ)、友希(ともき)(今日は部活は、お休みだ)とともに、エミィの住むシェアハウスへ、立ち寄った。エミィ曰く「今日、ここでシェアしている人が、体調を崩して、お仕事をお休みしてる。ちょっと心配だから、様子を見ておきたい」。 ハウスに入り、エミィは共用スペースのリビングにいた女性に声をかけた。 「大丈夫ですか、るり子さん?」 パジャマを着て眼鏡をかけた、セミロングヘアの若い女性が顔を上げる。 「ああ、エミィちゃん。ごめんね、心配かけて。もう大丈夫よ」 笑顔でそう答えると、ガラステーブルに広げた書類に目を落とす。 「……お仕事ですか?」 エミィの問いに、るり子という女性が応える。 「うん。本当は持ち帰り仕事なんてやっちゃいけないんだけど、ちょっと急ぎだったから、持って帰って、やってたの。今は、自分の部屋はちょっと散らかってるから、みんなが帰ってくるまでに、ここで仕上げようと思って」 そして、電卓を叩く。しばらくして、エミィは言った。 「無理しないでくださいね?」 その心配そうな表情と声に、気まずいものを感じたのだろう、るり子はつとめて明るい声と表情で言った。 「……そうだ、みんなに、電卓の面白い裏技、教えてあげる。このカジオの電卓って、ちょっと面白い機能があるの」
ハウスを出て、三人は、エミィが気配を察知したという、町外れにあるハイキングコースまで行った。
午後五時。書類を整理したるり子は、着替え、勤めている事務機器販売会社へ行った。彼女は、ここの会計主任だ。本来なら先輩が先に主任になるべきだったが、異例の抜擢で、この四月の人事で主任になったのだ。 エレベーターに乗り、会計課がある三階まで上がる。そして、会計課に行った。 るり子を見つけたのは、先輩社員の小崎(こざき)という男性社員。本来なら、彼が主任になるはずだった(と、るり子は思っている)。 「主任、どうした? 体調はいいのか?」 こちらへやってくる。 「ええ、これ、急ぎでしたよね? だから、持ってきました」 実は小崎は、るり子の憧れの先輩でもあった。だから、その先を制して自分が主任になってしまったことが、妙な負い目になってしまっていた。 書類を受け取り、ちょっと見ていた小崎だったが、不意に眉間にしわを寄せると、それを持って自分のデスクへ行った。そして、別の書類を見ながら、電卓を叩く。 少しして。 難しい顔をして、こちらにやってきた小崎は言った。 「三カ所も計算ミスがある! ちゃんとチェックをやったのか!? 主任のところで書類を完備して上に上げるんだぞ? もっとちゃんとしてくれ!」 返された書類を見て、るり子はうなだれた。 追い打ちをかけるように、小崎は言った。 「まったく。主任には失望……いや、絶望するしかないよ」 その言葉を聞いて、るり子は、社をあとにした。
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