ファン・タ・シー・キングダムでも、数年が経った。 高台にいて、エミィは作業の確認をしていた。アイ・スクリームやクーキョンが現場で指示を出している。 コードックがやってきて、エミィの左隣に立った。 「まさか、ファン・タ・シー・キングダムの領地の一部に、サービ・シー・ランド、ムーナ・シー・ハイランド、クール・シー・アイランドの難民を受け入れるための自治領を建設するとはな」 「女王様に感謝しなさい」 エミィは笑顔で言う。 「……お前が進言したと聞いた」 「遊んでた土地がもったいなかっただけよ」 コードックが苦笑する。 「それに、この件についてはカーナ・シー・エンパイアのオサキ・マックラー皇帝や、国の人たちも、全面的に協力してくれてるわ」 「次元壁は、取っ払ったんだったな」 「ええ。あの事件が収束した後、すぐに」 コードックが開発が進む区画を見ながら言った。 「あのあと、すぐにファン・タ・シー・キングダムが、カーナ・シー・エンパイアの復興に尽力した。そのお礼ということか」 「お互い様なのよ、世の中って。それに、女王様の中に、かつての女王ターノ・シーがやってしまったことへの罪滅ぼし、という思いも、お有りなのかも知れないわ」 コードックが神妙な顔になる。 エミィは言った。 「また、出かけるんでしょ、彼女をサガしに?」 「……どうかな? もうあれから何年も経った。だが、未だに……」 コードックがそこまで言ったところで、エミィは左手の人差し指を立てて、コードックの唇の前に持っていった。 「そんなこと言ったら、あなたのことを想って身を引いた愛望先輩に、申し訳が立たないわよ?」 コードックが微妙な表情になった。 その時。 「こらあ、キララー! 早く、わらわの呪いを解く魔法を見つけるのだー!」 「だからね、なかなか難しいんだってば! でも、かわいいから、そのままでもいいと思うわよ?」 「わらわは、本当は、ナイスバデーの、お色気むんむんの、すてきなおねいさんなのだー!」 カーナ・シー・エンパイア皇女のティア・ドロップ、そして、ファン・タ・シー・キングダム王女、キララだった。二人を見て、コードックが言った。 「あの皇女、何年経っても成長しないと思ったら、呪われてたそうだな」 「ええ。昔、うっかりブラック・ダイヤモンドに触れてしまって以来、ああなってしまったそうよ。ブラック・ダイヤモンドが消滅した今、根本的な魔法公式がわからないから、解呪が難航しているみたい」 キララがこっちに向いた。 「エミィ、お母様が来て欲しいって。西の居留区にいる、ムーナ・シー・ハイランドの難民の一部を受け入れるための区画の調整について、お話を聞きたいって」 「わかりました、王女様」 ティア・ドロップが、ビシィ!と、コードックを指さす。 「コードック! 必ずや、わらわの『びゅーちー・ぱわー』で、お前をメロメロずっきゅんにしてやるのだ!」 そして、キララとティア・ドロップは賑やかなやりとりをしながら去って行った。 ややおいて。 「会いたいんじゃないか、あの連中に?」 「そうね。でも、ここと人間界じゃ、時間の流れが違うから」 「一定してないんだったな」 「ええ。人間界が希望に満ちれば、時間の流れは近づいて、希望が失われれば、人間界の時間の流れは、とてもはやいものになる。だから、今、あの子たち、私よりも、大人になってると思う」 「……同い年じゃない訳か……」 「ええ。でもそのうち、きっと同じ時間を過ごせるようになるわ。きっと、……きっとね!」 エミィは青空を見上げた。ペンダントのアクアマリンが、光り輝くのを感じた。
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