時は遡り、前週の水曜日の午前十一時半。 笠井征人は、乾武繁の足取りを追っていて、「BiShop」の前まで、来た。ちょっと一服しようと、相方の刑事と話し、その刑事は近くのコンビニへ、征人は「BiShop」へ入った。 「あら、笠井さん。……なんか、お疲れねえ?」 愛那の言葉に、 「ああ、ちょっと、聞き込みで」 そう答えて、征人は聞き込みに使っている写真を出す。 「この男、見なかったかな、昨日今日で?」 写真を見て、「この人、いぬいクルーズの社長さんよね?」と言ってから、愛那は首を横に振る。 「そう。有り難う」 落胆は隠せない。昨日(さくじつ)、自宅及び別宅へと行ったが、身柄確保に至らず。緊急配備にもかからない。隣県の県警にも協力してもらったが、そちらでも今のところ、これといった手がかりはない。 その様子を見たのだろう、愛那が笑顔で言った。 「ねえ、この人、探してるんでしょ?」 「ええ。そうですけど」 「見つからないのよねえ?」 「そうなんですよ、もう、高性能のレーダーでも欲しいぐらいで」 そう言ってから、思わず口をつぐんだが、今さら秘密にすることもないので、頷いた。 「協力してあげようか?」 「え?」 愛那の突然の意味不明の発言に、征人は愛那を見る。変わらぬ笑顔で、愛那は言った。 「私、占いの腕はちょっとしたものなの。マルエフ……FACELESSのメンバー候補も、私が探してるのよ?」 マルエフというのは、超常能力を持った集団のようなものだと聞いている。はっきりいって、刑事警察の範ちゅう外の存在だ。そんな存在を探す「占い」で、逃走している被疑者を捜す、というところに、どうにも納得いかないものがあるが、もしこれで何らかのヒントが得られるなら儲けもの。だから。 「お願いできますか?」 征人の言葉に「ちょっと待ってて」と、愛那はいったんスタッフルームへ引っ込んだ。そして出てきた彼女は、何やら模様の描いてある名刺サイズの紙に、征人から聞き出した武繁のパーソナルデータを記入し、再びスタッフルームへ消える。しばらくして出てきた彼女は。 「この市の西部の山に、別荘地があって、そこに隠れている、っていう結果が出たけど?」 「え? でも、そこは昨日、捜索したけど、見つからなかったなあ」 「警察が帰った後で、潜んだのかも?」 首を傾げてから、征人は答える。 「それは、有り得ない。張り番……見張りを残しているから、もしそんなことをしたら、連絡があるはず」 「そう? でも、私も自信があるのよ?」 ちょっとむくれた顔もいいなあ、と思いながら、征人は言った。 「有り難う、真条さん。とりあえず参考にしておきます」 やはり占いは占い。自分たちは地道に足で探そう。 そう思い、征人は「BiShop」を出た。店の前の通りで、相方がコーヒーやおにぎりの入ったコンビニ袋を掲げて見せた。
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