駆け回っている白い影の隣に、青い孔雀が出現する。以前、実体化してたから、俺たちが来ると同時に、条件反射的に現れた感じだ。例の香りが漂った。その香りを嗅いで、璃依が言った。 「これ、なにかの花の匂いだね」 鮎見も頷いた。 「この香り、デルフィニウムじゃないかしら? 何度か静物のモデルにして、嗅いだ覚えがあるわ」 ふうん。なんで、そんな花が出てくるんだ? あの孔雀が花の化身、とか? まあ、それはともかく。 こいつは、例の光に用心しないとな! 俺は、スマホに「ある鏡」の画像を落とす。これで、光への対策はオッケーだ! 俺は、璃依を見た。頷いた璃依が、孔雀めがけて走る! 俺も併走した。 孔雀の尾羽の模様が光を放った瞬間、俺が璃依の前に出て、鏡を前にする。これはただの鏡じゃない。邪眼を弾(はじ)く「ウジャトの眼」をあしらった鏡だ。 金属物を打ち合うような音がして、俺と孔雀の間の空間に光が爆ぜる。 「璃依!」 俺の声に反応して、璃依が俺の背をジャンプ台にして、跳び上がる。そして、宙で数回、前転して、孔雀に右の踵を落とした! 電子的な残響音とともに孔雀が爆発した。 こちとら、日々、進歩してんだ! 人間の可能性、なめんな!
すでに霞が実体化してたんで、志勇吾は余裕で情報を読むことが出来たそうだ。視たところでは、この影の正体は、十三年前の新聞部員の無念。何の無念かっていうと。 「バンドを組んでいた、ある女生徒の不倫疑惑、ある男性教師の妻の不倫、ある教師の孫娘の淫行、書かないよう教師から指導」 俺と璃依がバトルをしている間に、鮎見が札を出さずに直接、神降ろしをした。条件が限定できるから、札を使わずに意識のチューニングができたんだそうだ。 『俺は正しいことをしている! 報道の自由は守られるべきだ! 人々の「知る権利」の前に、プライバシーもへったくれもあるか! 俺こそが正義なんだ! 俺以外、全て悪だ! 俺だけが、あらゆるものを白日の下にさらすことが出来る、究極の正義なんだ! 記事を潰しやがって! 許せない!』 それを聞いた俺は、鮎見に言った。 「チョーカー、貸してくれ」 鮎見も、苦虫を噛みつぶしたような表情で俺にチョーカーを寄越す。 俺はスマホに「次元断裂剣 2nd−Spec」を落とし、結晶体をはめてから言った。 『仁川(にかわ)鮭時(けいじ)(この部員の名前だ)、お前のようなヤツはジャーナリストでもなんでもねえ! お前のような尊大(そんだい)、いや、傲慢(ごうまん)なヤツの記事なんか』 そして、剣を振り下ろした。 「ボツだッ!!」 こっちに向かってきていた白い影が、空間ごと斬られて消滅する。いずれまた現れるだろうが、構わねえ。そのたびに叩ッ斬ってやるぜ!
結局、この夜潰せたのは、この三つだけ。 あと残っているのは。
・今は閉鎖されている旧講堂で、雨の夜に上演される謎の芝居。 ・深夜、昇降口で何かをまき散らす女生徒。 ・裏庭のどこかを指さしながら、不気味に笑う女生徒。
この三つだ。 新しいのが生まれる前に、必ず潰す!
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