リミット。期限日、つまり、金曜の夜だ。この夜は、なんとしても「調理室」「走り回る白い影」「放送室の不思議」は潰さないと! 俺たち四人は、まず最初の気配を感じた調理室に入る。白い影が調理台の前でなんかしている。 「あの時の霞は見えない。大丈夫だ」 志勇吾の声に振り返ると。 「あれ? お前、ゴーグルかけてねえな」 「まあな。俺もそれなりに修行をな」 俺たちが頑張ってたのと同様、志勇吾たちも頑張ってたってことか。これは、なんとしても解決させねえとな! 志勇吾が白い影を見ながら言った。 「五年前、芦崎(あしさき)伊都子(いつこ)、ダイエット失敗、やけ食い、どうせなら思う存分、食べてやる……」 鮎見が溜息をつく。 「札を探るまでないわね」 そう言って、チョーカーのスイッチを入れ、白い影に向いて言った。 『芦崎さん、最近、痩せたんじゃない? ひょっとして、食べても太らない体質になったとか? うらやましいなあ、私、水飲んでも太るから。ねえ、秘訣とかあったら教えてくれる? もしかして、今、作ってるものが、秘密のダイエット食だったりして?』 しばらくすると。 白い影が光の粒になって、天井に吸い込まれていった。 ……すげえ。鮎見がこれまでやってきたのは、いわゆる「神降ろし」。相手の意志を降ろすものだけど、今、こいつがやったのは「誘導」だ! 俺が見ていると、チョーカーのスイッチを切り、鮎見が言った。 「なんていうの? 私も『自己練磨』っていうやつ、やったから」 志勇吾が苦笑いを浮かべて「お前もじゃんか」と呟くのが聞こえた。璃依がボソッと。 「……悪用しないでね?」 ちょっとの間を置いて。 鮎見が、何かに気がついたように「ポン!」と右手の握拳(にぎりこぶし)を左手の平に打ち合わせた。 おいおいおいおい!!
放送室の影は「十四年前、百舌川(もずかわ)久実華(くみか)、放送部員、告白番組、企画中止、叶えたい想い」だった。「何の告白か、何を叶えたかったのか」と呟いた鮎見が引いた札は「玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする」だ。 璃依と二人して唸っていた鮎見だが、ふと何かに気づき、璃依にチョーカーを渡した。受け取った璃依がチョーカー、ブレスレットのスイッチを入れ、背後から、椅子に座っている白い影の肩に手を置いて言った。 『哀しかったよね、辛かったよね。あなたの想い、絶対、誰にも知られちゃいけなかったんだもんね。だから、この企画を利用して、投稿者からのメッセージということにして、あの人への想いを告白しようとしたんだよね。でも、それも叶わなかった。辛かったよね、哀しかったよね……』 背後から腕を回して、影の頭に頬を寄せる璃依の瞳から、涙がこぼれ落ちている。しばらくして、白い影が、光の粒子となり、天井へと消えていった。 しばらく鼻をすすっていた璃依だが。 「……次、行こうか」 笑顔を作って俺に言った。 何だか微妙な感情が俺の心にもわき起こった。
|
|