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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第96回   FINAL CASE・5
 どこで計算を誤ったのだろう?
 乾武繁は、これまでのことを振り返ってみた。アメリカから帰国した日曜日の夜遅くに、緊急記者会見を開き、その二日後の火曜日に開かれた、運輸安全委員会による第一次聴聞会での心証はいいものだった。悪魔召喚の儀式の影響かどうかまではわからないが、「船長の判断ミス」「航海士の操舵ミス」という結論へとまとめられそうな雰囲気だった。事故調査委員会も、表だっては中立なメンバーだが、実質的には武繁のシンパが大部分を占めており、こちらも「社には一切、落ち度はない」という方向へと持って行けそうだったのだ。
 それが、この週明け、臼井社長がいきなり「操舵輪に異状のあるのがわかった、隠し通せるわけがない、廃棄予定の船を新造船として登録したことを明かす」などと言い出したのだ。何があったかわからないが、意志は固いようで、説得したが、聞かなかった。一瞬「前日にでも、発生した不思議事件が解決されたのか」とも思ったが、それを確認したところで、どうにかなるものでもない。火曜日、改めて「説得の場」を決め、話したが、その際もみ合いになり、うっかり二人して倒れ込んでしまって、その弾みで臼井社長は後頭部を、転がっていたガレキに打ち付けた。
 咄嗟に臼井社長の体を起こしたが、ぐったりしている。そして臼井社長の大量の血液が付着したガレキを拾い上げてしまった。
 パニックになり、その場から逃走したが、誰かに見られたかも知れない。社に戻るのはまずい。そう判断して、この別宅地下へとやってきた。
「……悪魔に祈っておくか」
 ここへ身を隠してから、多分、二、三時間は経っていると思う。ついさっきも「悪魔召喚の儀式」をやったが、何度やっても不安しかない。
 食糧や水は、ここに備えた。これなら、数日、立てこもり、悪魔の儀式を行えそうだ。

「よし、そろそろ始めるか」
 志勇吾は、隣に立つ詠見に言った。
「そうね」
 と、詠見が周囲を見る。今二人がいるのは、本校舎屋上だ。
 火曜日、午後六時半。ゾディアック実体化のアイテムのコアパーツ……何やら訳のわからない記号やら文字やら「TETRAGRAMMATON」とかいう文字が周囲を囲う、五芒星の描かれた蓋(ふた)付きの、十センチ角の金属製の薄いケース……を、ポケットに入れる。探索を終えたら、元の場所……学園敷地西北にある、焼却炉傍の植え込みの土の下……に戻しておこう。
「さて」
 と、志勇吾は学園の敷地見取り図を広げる。これまで零斗が言うところの「アーク」の情報は、「金属製の箱に収められた何か」しかなかった。だが、それが悪魔との契約文書らしい、ということにほぼ、確定されてきた。
 志勇吾の能力は「特定の対象の情報を読み取る」もの、詠見の能力は「対象が特定された時、その背後にある事情を探るもの」。つまり、漠然とした探索には向かない。
 しかし。
 もし捜すものが悪魔との契約書であるなら、実は方法がなくはないだろうということになった。
 つまり、「契約書が隠せそうなエリアの情報」を読み、そこに「乾武繁」の名前、あるいは「悪魔」というデータがあるかどうかをチェックするのだ。その場所が見つかったら、さらに絞り込みをかけていく。時間がかかるかも知れないし、案外早くヒットするかも知れない。
 しかし、時間的なものは無視して、とにかくやってみよう、ということになったのだ。
「一番、怪しいのは理事長室だが」
 と、例のシンボルが書かれた紙を手に、ゴーグルをかけて情報を読む。
「……名前やプロフィールしか出ないな。『悪魔』とか『ゲーティア』なんてデータはくっついてない」
「はずれ、ね。札が答えないわ」
 詠見が大して落胆してないような口調で言った。
「となると、無作為ってことになるか」
 と、ゴーグルを外して、見取り図を見る。
 そして、次なるエリアに見当をつけてゴーグルをかけようとして。
「どうしたの? かけないの?」
 詠見の言葉に。
「ああ。太牙たちは、自己修練に励んでる。俺も何かしないとな」
「……これだから、体育会系は」
 呆れたように言う詠見に苦笑いを返し、志勇吾は呼吸を整える。普段はゴーグルをかけることで情報を読むようにしているが、それは一種の暗示。本来は意識の切り替えで出来ねばならない。
 志勇吾は見当をつけたエリア……研究舎四階にある特別会議室を見た。


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