「……なるほど。もしかして、彼女から聞いていたかな?」 「はい。紫緒夢ちゃんから、いろいろと。『「鍵(キー)」のセッティングの関係があるから』ってことで、教えてくれました。『訳もわからず、色んなことをするのはイヤだろうから』って。理事長さんから話が来て『生徒会とは別組織』って聞いてたけど、生徒会長も知ってるみたいだ、って紫緒夢ちゃん言ってました」 「なら、話は早い」 と、零斗は言った。 「彼女……紫緒夢さんは、ゾディアックとしてここに実体化する際、ある『鍵』を使うという。すまないが、こちらが指定する時間帯、その『鍵』を無効にしてもらえないだろうか?」 「え?」 と、摩穂が怪訝そうな顔をする。 「どういう意味ですか?」 「実は、『あるもの』を探す際、彼女が実体化するらしいんだが、こちらが『それ』を探すたびに実体化していては、彼女にとって負担となる。だから時間帯を決めて、その『鍵』を無効にしておけば、探す際に彼女の負担にもならない」 ちょうどその時、摩穂の携帯に電話がかかってきた。 「ええっと、いいですか?」 急ぎの電話かも知れない。頷くと、摩穂が電話に出た。 「……ああ、紫緒夢ちゃん?」 話題の相手からだった。志勇吾と話をしたから、それについての返事かも知れない。事実、摩穂の応答の言葉を聞いていると、どうやら紫緒夢はこちらの申し出を受けてくれるような気配だ。 「構わないね?」 電話を終えた摩穂に確認する。 「はい、わかりました」 笑顔で摩穂が言う。 「助かったよ。……君のお父上、幸三氏の栄転話を知った時、てっきり乾理事長の働きかけがあるものと思っていた。だが、その後、調べてもらったら、もともとこの三月にその話があったが、乾重機の内部事情で、十月まで異動が延期になっていたことを知った。つまり、君は乾理事長に、何らの借りはないということ。引き受けてくれると思ったよ」 「……何言ってるんですか、会長さん?」 何やら難しい顔で、摩穂が言う。それに苦笑して「なんでもない」と言い、零斗は摩穂を帰らせた。入れ替わるように詠見が入ってきた。 「どうしたね?」 詠見が、何かの紙が入った無色透明のクリアファイルを軽く掲げる。 「今月半ばの体育祭の看板、それに使う絵の具等の経費、美術部が代表で申請に来たわ。これ、領収書。同じ画材店で買った分は、一枚にまとめてもらったわ。大丈夫、各欄、日付ごとになってるから」 そのファイルをデスクに置き、詠見は言った。 「話、聞こえてたわ。珍しいわね、あなたが誰かのことを気づかう、なんて?」 シニカルな笑みを浮かべながら言う詠見に、同じように皮肉めいた笑みを返し、零斗は言った。 「君は、僕をどんな人間だと思ってるんだ?」 「打算だけで動いてる人間」 「はっきりと言ってくれる」 と、苦笑し、零斗は言った。 「僕だって、たまには……。と言いたいところだが」 と、ふと零斗は自分の中にあった「計算」に気づいて答えた。 「もともとは春瀬くんから持ちかけられたことだったんだ。『自分が言うより、生徒会長が言った方がいい』みたいなことを言っていたな。なんとなく照れのようなものを感じたが、気のせいだろう」 「……あなた、人が人を想うっていうことが、根本的に理解できてないわ」 「どういう意味だ?」 「世の中にはね、第三者に『誰かにラブラブです』って明言できる人もいれば、そうでない人もいるってこと」 呆れたように言う詠見に「まあいい」と答え、零斗は続けた。 「確かに、計算のようなものはある。僕の代で、この『七不思議事件』を終結させることが出来れば、学園史に僕の名前が残る。実社会においては、これは微々たるものだろうが、このような『小さな勲章』の積み重ねが、やがては『大きな椅子』を引き寄せることになる。君も覚えておくといい」 しばらくおいて。 「とりあえず忠告。もしカラオケに誘っても誰もついてこなくなったら、背中には気をつけなさい」 「心配には及ばん。そもそも僕は、誰かをカラオケに誘ったりはしない」 「……それ、友だちがいない、って解釈してもいいかしら?」 さすがに零斗は、言葉に詰まってしまった。
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