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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第94回   FINAL CASE・3
 先週の土曜日に調理室やら放送室の三件、翌日の日曜日に、武道場と旧講堂の二件が発生。月曜日の朝に貝田さんから、アイテムの時間制限を外すことは出来ないって返事があった。
 なので、俺は璃依と相談し、しばらく学校を休んで、自己修練することにしたんだ。もちろん、二日や三日、修練したからといって簡単にパワーアップなんて出来ねえ。だけど、璃依は暗示で、最大限まで力を発揮できるようになってる。この修練で、その時間を長く維持できるように、そして、断続的に使えるように、精神を鍛えるんだ!
 俺たちが取り組むのは瞑想と読経。まずは今日、火曜日。朝、水(みず)垢離(ごり)をして、日中(にっちゅう)は、ひたすら般若心経を読誦(どくじゅ)した。五十巻当たりから、何を唱えてるのか、いや、何をしているのかわからなくなってきたが、それでも唱え続けた。
 昼は呼吸操錬。本当は体錬込みなんだが、これはちょっと難しいところもある。下手に無理して身体の筋とかイッちまうと、あとがたいへんだからな。
 そして、午後からはまた般若心経の読誦。夜になってからは、一旦、瞑想を挟んでから、今度は不動尊関連のお経の読誦だ。
 次の日は、イメージトレーニングを加えて、と、かなりハードなスケジュールだが、仕方がない。先週土曜日の被害者は、まだ昏睡中。リミットは一週間、この金曜日だ。
 今も、実は不思議事件は起きていて、昏睡状態になった生徒がいるらしい。スマホをチェックしたが、猿橋から「新たに『深夜、昇降口で何かをまき散らす女生徒』が実体化した」、というメールが入ってきていた。
 すまない!
 でも、必ず解決するからな!

 猿橋零斗は、火曜日の放課後、生徒会室に一年生・磨楠(まぐす)摩穂(まほ)を呼び出していた。
「なんでしょうか、生徒会長?」
 摩穂の表情には、どこか不安げな色がある。無理もない。転校してきてすぐならまだしも、夏休みを挟んで、呼び出されたのだ。……いや、考えすぎか? その表情に不安げな色があるように思うのは、自分の考えすぎかも知れない。
 もしかすると、彼女が不安に思っているように感じるのは、零斗自身の心理の投影かも知れなかった。
 ふと自虐の笑みが漏れる。いつから自分は、こんなロマンチストになったのだろう?
「あの、お話があるんですよね? なんですか?」
 摩穂の言葉に我に返り、零斗は言った。
「率直に言う。君の従姉妹に、磨楠(まぐす)紫緒夢(しおん)という、砂鞠矢高校に通う三年生がいるよね?」
「え? ええ、そうですが。でも、どうして、そんなことをご存じなんですか?」
 不思議そうな表情をしているが、無理もない。家族関係ならわかるだろうが、親戚関係までは知らないだろうし、また、そこまでの身上調査をする意味も無い。
 相手を安心させる、というつもりまではないが、笑みを浮かべ、零斗は言った。
「本学園二年に、春瀬志勇吾という生徒がいる。彼とその女生徒は、親しくしている。……ああ、いや、そのことは君の方がよく知ってるか」
 摩穂が不思議そうに首を傾げる。
「ええ、確かに紫緒夢ちゃんと春瀬先輩がおつきあいしてるのは、知ってますけど。それを、どうして生徒会長が知ってるんですか?」
 さて。ここで、FACELESSのことまでいうべきかどうか。……やはり、本題のみを話すべきだろう。いたずらに「七不思議事件」のことを話して、混乱させるのは、得策ではない。確かに、このところ意識不明者が続出して、「七不思議事件」のことは学園で知らない者はいないが、それを解決させる組織がある、などと話すと、いらぬ詮議を呼ぶ元になる。
「春瀬くんは、僕の友人だ」
 言った瞬間、違和感に吹き出しそうになった。FACELESSの面々を、駒と思いこそすれ、友と思ったことなど一度もない。
「そうだったんですか」
 それでも摩穂は納得したような、柔らかな表情になっている。
「ということは……。やっぱり会長さんが『FACELESS』の元締めなんですね? なんとなくそうじゃないかって、思ってたんです!」
 笑顔とともに言った摩穂の言葉に、呼吸が止まりそうになった。止まった思考が動き出すまでに数秒。解凍すると同時に、零斗は様々なことを悟った。


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