そう思っていたら、携帯が鳴った。刑事課長からだ、。 「どうしましたか?」 問うてみると、刑事課長はこちらの状況・様子を聞いてから、言った。少しばかりの間を置いて。まるで、この先をためらうかのような「間」だった 『雉谷造船船舶管理株式会社の臼井社長が、何者かに殺害された』 「……え? なんですか、それは?」 ここで、別の事件。正直、手一杯だ。そんな不満が出そうになったが、それをこらえ、鳴嶋は聞いた。 「殺人で間違いなんですね?」 事故の可能性があるなら、それも考慮した方がいい。 『後頭部に鈍器で殴ったような跡がある。凶器はまだ見つかってないが。……それで、だな』 と、刑事課長は驚くべきことを言った。 『臼井社長は九時四十五分頃に「ちょっと出てくる」と言って出かけたそうだ。今日の十一時に、「いぬいクルーズ」で、運輸安全委員会の聴聞があるから、十時二十分には戻って欲しいと伝えたそうだが、時間になっても帰ってこず、携帯電話にかけても応答がない。ところが、その後、そこから車で二十分ほど先にある、解体予定の廃ビルで、臼井社長の撲殺死体が発見された。発見したのは、警邏(けいら)中の交番勤務の巡査。何者かが走り去るのを見て不審に思い、廃ビルに立ち入ったところ、臼井社長の死体を見つけたということだ。所持していた免許証から身元がわかり、美台署(うち)に通報してきた』 雉谷造船といえば、乾ホールディングスの傘下にある企業だ。その性質上、雉谷造船で建造された船舶が「いぬいクルーズ」で運用されているという。 なにか関連があるのか? 『その廃ビルだが、そちら……「いぬいクルーズ」からも、車で十分程度のところにある。これは、確定情報ではないんだが。今回の沈没事故、何らかの不正があったらしい』 「不正?」 『ああ。それが何かはわからん。雉谷の社員も、現時点で話を聞けてる限り、よくわからないらしくてな。ただ、もし不正があったとすると……』 この先、というか課長の考えがわかった。課長は「その『不正』にからんで、乾社長と臼井社長との間で、何らかのトラブルがあったのでは」と考えているのだ。それはつまり。 「……緊急配備を敷きましょう」 『わかった。県警本部の方には私から連絡する』 電話を切り、鳴嶋は笠井巡査ほか、同行させた刑事たちに言った。 「緊急配備を敷く! 乾武繁の身柄確保に全力を傾注!」 笠井が首を傾げる。 「鳴嶋さん、今の電話、何だったんですか?」 「道々、説明する。まずは乾社長の立ち回り先を当たる!」 笠井が言った。 「え、と。自宅、別宅、あと、隣の県にある大学に通う息子がいますから、その息子の住所地……砂鞠矢市にも行く可能性があるかも」 「よし! 二班(ふたはん)に分かれて、まず自宅と別宅を当たる!」 鳴嶋の指示に、一同が頷く。
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