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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第90回   CASE12・4
 さて、あの白い一群を消せば、問題解決ということだから。
『いちいち剣で斬るのも面倒ねえ』
 ならば。
『水瓶(みずがめ)から、浄化の力を一気に放出すれば……』
 そう思って、法陣からみずがめ座を呼び出そうとした時だった。
 おぞましい「気」が噴き上がるのがわかった。思わず、そちらに振り返ると、狼が獅子を喰らったところだった。その狼から噴き上がっている「気」は……。
『まさか、……悪魔……!』
 悪魔そのものではないが、悪魔の「気」を宿した存在だ。そのボルテージは決して高くはないものの、今、紫緒夢が意識を移している人工精霊如きでは、まるで歯が立たないだろう。しかし。
『うん! 私、志勇吾くんの力になりたい!』
 決意が紫緒夢の意識に力を与える。狼が遠吠えのような音を漏らした。背筋が寒くなるような、畏怖すべき響きがあったが、剣を持つ手に力を込め、紫緒夢は狼に斬りかかる。だが、狼は軽々とかわし、紫緒夢を見ている。その様子に、警戒というより、相手の余裕を感じた。おそらく向こうも、力の差というものを感じているのだろう。もし明確な意志というものを持っているとしたら、きっとこう思っているのではないか?
「少しぐらいなら、遊んでやってもいい」
 悔しくはあったが、事実だ。だが、蟷螂(とうろう)の斧といえど、一矢(いっし)報いることはできるはず。
 射手座を呼び出し、背後から射かけさせたが、なんらダメージになっていない。やはり、人工精霊では、なんの影響を及ぼせないか。せめて、本体としてここにいるのであれば、いくらでも対処できるのに!
 悔しさが体中を駆け巡る。高位の魔術師になれば、幽体で儀式を行い、奇跡(ミラクル)すら起こせるが、紫緒夢はまだそこまでには達していない。彼女は確かに「意識転送」の能力があるが、出来るのはそこまで。意識を移した先で、複雑な儀式までは行えないのだ。
『それでも!』
 と、紫緒夢は剣を片手に「五芒の追儺(ついな)」にかかる。だが。
 人工精霊に意識を持って行っている分、通常の倍の時間と気力が必要だった。結局、相手をかわしながら行(おこな)ったものの、術が完成する前に狼に喰らいつかれ、体が食われてしまった。

「これでよかったのか?」
 俺がやったのは、もう一つの影とともに、本体の白い影に、ひたすら斬りかかることだった。鮎見曰く「要は、『やる気』を取り戻させればいい」とのことだったんで、ひたすら打ち込んで、相手を「その気」にさせようとしたんだが。
 なんだか、試合らしいものにならず、よくわからんまま、相手は消えた。それでも光の粒になって、天井に吸い込まれていったから、無念の解消になったと思うんだが。
 鮎見はちょっとだけ困ったような顔になる。
「もしかしたら、『自分の実力不足を実感できたから、もういいや』だったのかも知れないわ。あるいは『自分の性根を見極められたから、満足だ』かも?」
「なんだ、それ?」
「さあ?」
 と、鮎見は肩をすくめる。
 胡座(あぐら)かいて息を整えている璃依が、ぼそっと言った。
「剣道は、もういいや、かも?」
 ……。
 なんにせよ、解決だからいいか……、と思った時だった。
 旧講堂の方から、奇妙な力の揺らめきが伝わってきた。何かエネルギー体のようなものが消滅したような感じだ。一瞬、向こうの「不思議」を消したのかと思ったが。
 璃依が呟く。
「この感じ……。ゾディアックを消した時とおんなじ気がする……」
 璃依は、二度、直接ゾディアックを消滅させている。その時の感覚が残ってるんだろう。
 しばらくして。
 志勇吾が慌てたようにスマホを出し、どこかへ電話をかけた。
 数秒後。
「……あ、もしもし、紫緒夢さん? 俺だけど! 大丈夫?」
 誰だ、「しおんさん」って?
 鮎見が何か会話している志勇吾のそばに、こっそりと近づき、志勇吾のスマホに耳を当てようとしたが、いかんせん、身長差というものがある。それでも、断片的に聞こえたようで、なんか「ニヤリ」として、俺たちのところに来た。
「ハッキリと聴き取れなかったんだけれどね? 『食べられちゃった』とか『璃依ちゃんに倒された時みたいに、頭がクラクラして、体がダルいけど、大丈夫』とか、『役に立たなくてゴメンネ』とか。……なんか、ただ事じゃない雰囲気だったわよ?」
「鮎見、お前、いい趣味してるよな」
 俺は、盗み聞きなんか、しねえぞ?
「璃依ちゃん、って、春瀬くん、あたしたちのことを話してるんだ……」
 璃依がそう呟いて、なんか、意地の悪そうな笑みを浮かべて、続けた。
「これは、詳しく聞かないとねえ!」
 そして鮎見に肩を借りながら立ち上がる。電話を終えた志勇吾に近づき、わざとらしく咳払いをして、璃依は言った。
「春瀬志勇吾くん。ゾディアックといえば、先日まで我々と、半ば敵対関係にあった存在です。そのようなものと、親しげに会話したということについて、ご説明いただけますか? 場合によっては、機密漏洩ということに言及せざるを得ないのですが?」
 なんか、レポーター調で。
 志勇吾がスマホをポケットに入れながら、言った。
「あ、いやあ、なんていうか、その」
 しどろもどろになってる志勇吾に、璃依は容赦なく質問を浴びせる。……お前が目指してるのは、女子アナであって、芸能リポーターじゃなかろうに。


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