「なんだって、連休の夜中に、深夜の学校に行かないとならんのだ」 何度目かになる俺のぼやきを、璃依があっさりと切り返した。 「だって、昏睡状態になった生徒が二人、出ちゃったもん。解決しないとまずいでしょ?」 確かにそうだ。実際に「被害者」が出ちまった以上、解決させないとならない。 「しかし、今回は早かったなあ。確か三月の中頃じゃなかったか、『深夜、本校舎屋上で唄う白い合唱部』の話が沸いたの?」 璃依が頷いた。 「確か、最初の目撃者は『グラウンドを走り回る、初代理事長の銅像』を見たくてやってきた、当時の一年生だったかな? でも、銅像は見られなくて、代わりに本校舎屋上で唄う白い一群を見たんだ」 学校へ向かう途中に児童遊園がある。この遊園の入り口のところに、自動販売機があるんで、そこで俺はアイスコーヒー、璃依はグレープソーダを購入。この遊園は、特に施錠とかされてないんで、俺たちは中に入り、入り口近くのベンチに腰掛けた。 「ここって、遊園、っていうわりには砂場がねえな」 プルタブをひき、そんなことを言うと、璃依もプルタブを引いて答えた。 「なんかで聞いたことがあるんだけど。猫とかの排泄物とかで、衛生上問題があるとか、カッターの破片とかの危険物を埋める奴とかがいるんで、砂場をなくす遊園が増えてるみたいよ?」 「やな世の中になったなあ」 そう呟いて、俺はコーヒーを飲む。俺や璃依の実家があるところは、はっきり言って、田舎だ。俗世と隔絶された寒村ってわけじゃねえが、それでも内陸部の山間(やまあい)。コンビニはねえし、周囲(まわり)は畑と田んぼばっかり。一番でかいスーパーが、うちの学校の武道場ぐらいの広さしかねえ。当然、電車は通ってなくて、市街地へ行くにはバスしかないし、そのバスも、三十分に一本だ。 でも、児童遊園みたいなところには、いろんな遊具があった。砂場も結構広いものがあって、衛生とか危険物とか、そんなの、誰も心配なんぞしてなかった。 この遊園は、そこそこ広いが、滑り台とブランコ、シーソー、動物の形をして前後左右に揺れる遊具しかない。鉄棒とか、ジャングルジムとか、ねえんだよな。不自然に広い空間があって、そこになんかがあったらしいことはわかるんだが。 「なあ、璃依、あそこに何があったか、知ってるか?」 なんとなく聞いてみた。頷いて、璃依は答えた。 「ぶら下がるタイプのシーソーがあったんだって。ぶら下がり式シーソーっていうそうだけど。四、五年前に、手が滑って落下した子どもが足首の骨を折る大怪我をしたから、撤去したって聞いたわ」 「お前、よく知ってんな」 マジで驚いた。 「美台市のケーブルテレビの運営元に行ったの。その時に聞いたんだ」 「……なんでそんなところに行ったんだ?」 率直な疑問だった。璃依は笑いながら答えた。 「いやあ、JKのリポーターとか、雇いませんか、って売り込みに行ったの! 間にあってます、って断られちゃった! 余ってんのかなあ、JKのリポーター?」 「……んなわけあるか」
ちなみに、こっちに出てきた俺たちは、アパート暮らしだ(ちなみに璃依も同じアパート。俺は201号、璃依は305号だ)。美台学園には寮がないし、こっちには親戚もいねえし、深夜に学校に行くことを考えたら、歩きや自転車で来られる範囲に居を構えないとならねえし。 で、歴代のFACELESSのメンバー御用達のアパートに住んでるってわけ。 もっとも、もともとFACELESS専用のアパートってわけじゃねえ、当たり前だが。しかし、七、八年前から空き部屋にFACELESSのメンバーを放り込むようになって、いつの間にか専用の寮みたいな扱いになった。家賃は学校がもってくれるし、毎週月水金だが、晩メシも差し入れてもらえる。 ただ、そこの大家が学園から「管理」を任されてるんだ。FACELESSとかの詳細は伏せられてるが、「学園生徒のことをよろしく」みたいなことを頼まれているという。この大家が、よくいえば面倒見のいい爺さん婆さんで、いろいろ俺たちのことを気にかけてくれるんだが。例えば、朝早くに、部屋に入ってきて、俺をたたき起こすとか……。 ……これについては、ここまでにしよう。悪口は言いたくねえ。
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