20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第89回   CASE12・3
 ゾディアックこと磨楠(まぐす)紫緒夢(しおん)が旧講堂へ行ってみると、真っ暗な中、舞台の上で、十体以上の白い影が、何らかの演劇を演じているかのような動きを見せていた。だが、何かがおかしい。しばらく視ていて、やがて、その正体がわかった。
『怒り。あの一団を支配しているのは、怒りだわ。いったい、なぜここまで怒りに満ちているの?』
 今、演じている場面が「そういう場面」なのかも知れないが、とにかくここに満ちているのは、怒りのエネルギーだ。紫緒夢はしばらく様子を見た。セリフが聞こえないのでまったく展開がわからないが、時折、何らかの小道具らしいものを出して観客に説明するような仕草を見せている。そのうち、その小道具の中に、横断幕のようなものが出てきた。はっきりと字が書いてあるわけではないが、ある種のオーラ視で、何が書いてあるかを理解し、そして、彼女は、この怒りの正体に気づいた。
『そうか。このお芝居、あの社会問題をテーマにしてるんだ。でも、それを上演すると、この学校も叩かれる。だから学校側は上演禁止にした。そこで、彼らは、ここで密かに上演したけど、それも禁じられた。その処分に対する怒りと、その問題そのものに対する怒り、それがないまぜになってるんだ!』
 紫緒夢も、数年前、報道等でその問題を聞いた時は、確かに怒りに駆られた。彼らはその怒りがここに固定されているのだ。
 気持ちはわかるが、志勇吾の話では、ここでこのように実体化すると、これを目撃した生徒が昏睡状態のまま、衰弱していくらしい。本来なら、その無念なり何なりを解消してやるのがいいらしいが、そんな芸当はできない。
 いずれ、復活するそうだが、この場は消滅させるほかない。紫緒夢は剣を出現させた。すると。
『……なに?』
 一団の前に紫色の霞が充満し、二メートルはありそうな巨大な狼になる。それと同時に何かが浮遊しているのがわかった。その浮遊しているものを、オーラ視で視る。
『……シャクヤクの花?』
 意味がわからない。さっき志勇吾が簡単に言っていたが、これまでは現れたことのない「謎の存在」がいるそうだ。
「怒り」にとらわれた一団に、「狼」、そして「シャクヤク」。何か、関連があるのだろうか?
 それはともかく。
 紫緒夢は法陣を念で出現させ、そこから獅子座を呼び出した。黄金色に輝く獅子と、紫色の狼が激突した!

 赤紫色の霞が実体化し、赤紫色の熊が現れる。体高、三メートルほど。
「熊は、あたしが!」
 そう言って、璃依が飛び込んでくる。おそらく「竹刀を持っている方は、剣を持った俺に」ってことだろう。
「……相手が牛だったら、『あの人』と肩を並べられるのに」
「? なんか言った、太牙?」
 心底、不思議そうな顔をする璃依は置いておき、
「いや、なんでもねえ」
 俺は剣を構え、本体である方の剣士に向かった。しかし。
 なんていうか、のらりくらりっていうか。
 まともに立ち会う気がないように思える。
 なんだ、こいつ、戦う気が全く感じられねえ?
 妙な気配に俺が戸惑っていると、璃依の悲鳴が聞こえた。そちらを見ると、吹っ飛ばされたのか、璃依が床の上に転がっている。なんとか立ち上がるが、ダメージが大きいらしい、片膝をついてしまった。……いや、消耗も激しいようだ。なんだ? もう、気力を使い果たしたのか? 確かにこのアイテムを使うと気力の消耗は激しいが、極端に気力が尽きる、なんてことはないはず!?
 志勇吾たちも助けに入りたいみたいだが、熊の攻撃で、近づけないらしい。志勇吾も、吹っ飛ばされてるし。
 とにかく!
 俺は、一度剣士を見たが、そいつは何かする気配はねえ。だから、俺は、踵を返し、剣を熊に向ける。掌に結晶を出現させ、剣にセットした。そして気合いとともに、次元断裂を放つ!
 璃依にのしかかり、喰らいつこうとしていた熊が、周囲の空間もろとも砕け散った。
 ……あ、俺も立ちくらみがする。どうやら、今の一撃にかなりの気力を使っちまったらしい。無意識に、そのぐらいの気合いを込めたってことか? ……っかしいなー、俺自身の中で、それほどの強敵っていう意識はなかったんだがな、あの熊?
 それとも。
 なんとしても、倒さなきゃ、って感じてたのか?
 なんで?
 俺って、そんなに使命感の強い人間だったっけ?
「大丈夫か、璃依?」
 肩で息をしながら、俺が聞くと、璃依も荒い息で、仰向けの状態から起き上がりながらも、「なんとか」と答えた。
 振り返り、剣士たちを見る。相変わらず片方が片方を、一方的に打ち据えている。本当に何なんだ? 鮎見の言う通り、マゾとか?
 そう思っていたら。
「二年前、山元(やまもと)能一(よしかず)、剣道部、県大会予選敗退、サボり癖」
 志勇吾のゴーグルにあるスペードマークが紫色の光を放っている。鮎見も、チョーカーのクローバーをペリドットに光らせながら言った。
「大阪がるた、『楽して、楽知らず』。……『俺は、怠け癖がついてた。俺の実力なら、楽勝で勝てると思ってたんだ。でも、負けた。みんなにも言い訳ばかりして、結局その後もサボってばかりで……。いや、そうじゃない。顔を合わせられなかったんだ。俺の心の醜さを見透かされてるようで。できるなら、主将に鍛え直してもらいたい』」
 ……。
 なるほど。マゾっていうわけじゃなくて、自分を戒め、罰していたってことか。ということは、どうすりゃあいいんだ?
「宇津くん」
 と、鮎見が言った。
「趣味じゃないかも知れないけど……」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1811