今、俺たちがいるのは武道場だ。今日は生憎、雨。そして、実体化しているのは、「武道場で、試合をする剣道部員」だ。白い二つの影が竹刀で打ち合ってるんだが、どうも、様子がおかしい。見ていると、一つの方は、あまり動こうとしない。それをもう一つが竹刀で叩いて、動かそうと発破をかけているようなのだ。 「なんか、予想してたのと、違うな」 俺がそう言うと、璃依も頷いた。 「うん。あたしも、試合かと思ってた。それに、この様子、てっきり、いつかの女子空手部みたいに『こいつだけは性根をたたき直さないといけない』に感じられるけど……」 その言葉に、鮎見が言った。 「叩かれてる方が、実体だわね、これ? ……マゾ?」 志勇吾がゴーグルを外す。 「ダメだ。赤紫色の霞のようなものが全体を覆ってる」 今度は赤紫色か。この間は、赤、青、白。虹とは違う。どんな意味があるんだろうな。 とにかく。今、鮎見に神降ろしさせる訳にはいかない。この間のようなことになりかねないからな。だから、正体を探るのは今回も無理そうだ。倒してから探って、後日、対応ってことになる。 俺はスマホに「次元断裂剣−2nd.Spec」を落とす。その時、旧講堂の方で、何らかの気配が発生したことを感じた。雨の夜の旧講堂っていうと。 俺と同じことを感じたらしい璃依が言った。 「『今は閉鎖されている旧講堂で、雨の夜に上演される謎の芝居』……。また、同時発生だね」 頷き俺は言った。 「だが、今回はここ一点だけに集中する!」 あの人……貝田(かいだ)さんからは、まだ返事をもらえてない。だから、ここは確実に潰していく方向性で行く。みんなで話して決めたんだ。 その時。 志勇吾が、ウエストポーチから、ラミネートパウチした何かを出した。五センチ角の白いもので、何かシンボルマークのようなものが描いてある。 「彼女……ゾディアックの力を借りよう」 「え?」 なんか、奇妙な発言に、俺は聞き返した。 「ゾディアックの力を借りるって、お前、連絡先とか知ってんのか?」 「ああ、まあ、ちょっとな」 と、何だか歯切れの悪い言い方をして、志勇吾は手にした物を目の高さに掲げる。 「彼女、もともとは、ここの力場の揺らぎを感知して、実体化するらしいんだが、今は条件を絞るようにしているそうだ」 璃依が首を傾げる。 「その言い方だと、ゾディアックと、かなり親しいって感じるよ?」 「……今度、話すよ」 なんか、志勇吾の顔が紅い様に見えるが、武道場の証明のせいかもしれねえ。 しばらくそのシンボルマークを凝視していた志勇吾だったが。 不意に、天井から気配が出現した。そちらを見ると。 鮎見が呟く。 「ゾディアック……」 有翼の若い女、ゾディアックだった。 「ゾディアック、君の力を借りたい」 志勇吾がそう言うと、しばらくして。 『……うん。私は何をしたらいいの?』 なんて、返事があった。 「なんか、おかしいよね? っていうか、絶対、おかしいよね!?」 璃依が小声で俺に言った。 「え? まあ、確かに親しげではあるから、おかしいちゃあ、おかしいが」 「絶対、変だって! この間まで、何か敵対するような感じだったのよ!? それが、この態度! ……あやしい。絶対、アヤシイって!」 鮎見も、何だか難しい顔をしている。そして、俺たちに近づいて、小声で言った。 「デキてるわね、あの二人」 ……。 そうなのか? そういうもんなのか、あれって? 俺たち三人の視線に気づいているのかいないのか、志勇吾とゾディアックは話をまとめたらしい、ゾディアックは、壁抜けのようにして、旧講堂の方へ行った。 ということは。 「璃依、こっちを片付けるぞ!」 「うん!」 俺たちのインジケーターが光を放った。
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