走り回る白い影は男子生徒らしい。何か喚(わめ)いている。何を言っているかまでは、聴き取れねえが。 俺はスマホをガントレットにセットして、剣を出現させる。そして踏み込もうとした時、ヤツの前に、青い霞が集まり、なんかを形作った。それは、青く光る孔雀。大きさは人間より一回りぐらい大きい。それに。 「……なんだ、このニオイ?」 なんか、花のようないい香りが漂ってくる。 まあいい、それどころじゃねえ! 俺は、結晶体をくぼみにはめ込み、剣を振るった。しかし! 孔雀が尾羽を広げると、俺の放った力が相殺されたみてえに、ガラスの割れるような音が響いた。もう一度、放つが、同じだった。だったら、直接剣を当てるしかねえか。現時点でコミックに出てる結晶体は青だけだしな。 俺は呼吸を整え、駆けだした。インジケーターが点滅を始めた音がする。まだ、一分半ある。その間に、決着をつける! そう思って、ヤツの、向かって右手側に回り込んだ時だった。尾羽の先にある、目玉のような模様が閃光を放った! 「……?」 体から力が抜けた。なんだ、今の光? 膝から脱力して、うつぶした俺は、剣を杖にして立ち上がろうとするが、うまくいかねえ。 そういえば、なんかで「孔雀の羽は、百の目があり、不運を退け幸運を呼ぶ」なんてのを読んだことがある。もしかして、その逆……邪眼になってるってことか? 俺に向かってきた白い影が、横を駆け抜けていく。その時、ヤツが何かを手に持ってるのが見えた。大きさはA4ぐらいの何か。多分、紙、だと思う。 なんだ? 何を持ってるんだ? 何が無念になってるんだ? インジケーターがオレンジ色の点滅に変わったが、相変わらず俺の脚に力が入らない。 クソッ! どうにか……。 「そうか……」 俺は一旦、スマホを外し、今度は「次元壁貫通銃−2nd.Spec」を呼び出し、セットした。 これは今週号から登場しているアイテムなんだが、実は、まだ威力がはっきりと描かれてねえ。ただ「相手を写した写真を撃つのでも効果がある。つまり、相手の方を向いていなくてもいい」ていうのがわかるぐらいだ。その威力も、コミックの描写を見る限りじゃあ、相手の動きを一時的に止める……麻痺させるぐらいしかないようだが。 でも、使わないよりはいい。 オレンジ色の点滅音が響く中、俺は首を回して、左手にいる孔雀を見た。写真じゃねえが直接見るのなら、同じだろう。そして、銃口はあさっての方を向いているが、引き金を引く。 一瞬、孔雀の動きが止まる。途端、体が自由になった。俺は、すかさず身を起こし、走り回る白い影を見た。今度はこっちに向かってくる。俺は引き金を引いた。動きがとまる。すかさずスマホを外し、「次元壁貫通銃」を呼び出す。そして、ガントレットにセット。現れた銃を向けた時。 銃が消えた。インジケーターも暗くなってる。全身をものすごい脱力感が襲った。 ……タイムアップか。ちくしょう! 俺の目の前で、白い影が走り回る。しかしやがて霧のようになり、風に吹き散らされるように消えていった。
回復した璃依は、意識を取り戻した詠見を連れた志勇吾と合流し、本校舎二階へ行った。 そこでは、ただ床を叩き、泣きながら「ちくしょう」と繰り返している太牙の姿があった。 何があったかは、見当がつく。璃依の胸も張り裂けそうになった。 「太牙……」 志勇吾や詠見が見ていることなど、気にならない。璃依は自分の胸に太牙の頭を抱き込んだ。 太牙は、ただ嗚咽しているだけだった。
(CASE11・了)
あとがき
「CASE11・2」の「ベルソムラ系の睡眠薬」のところ。「ベルソムラ(一般名:スボレキサント)」は実在する薬剤ですが、その特性の部分は、実際の効用等を元にしたフィクションです。
……ゴメンネ(苦笑)?
|
|