放送室に上がってみる。 階段を駆け上がる途中でスピーカーから、不気味な声は聞こえていた。くぐもっていて、何を喋っているかまではわからない。 機材の目に座る白い影。シルエットから見ると、女生徒らしい。ブレスレット、アンクレットのスイッチを入れる。アクアマリンの光が放たれ、全身に力が溢れていく中、璃依は言った。 「ごめんなさい。あたし、『知る』力は、弱いの。だから、この場はあなたを消滅させることしかできない」 拳を構える。すると、その女生徒に前に、白い霞のようなものが現れ、一つの白い影を形作った。それは、人間の倍ぐらいある兎(うさぎ)のように見えた。どこからか、ジャスミンの花のような香りも漂ってくる。 さっきといい、今といい、これまでとは何かが違う。一体、何が起きているのかわからないが、とにかくこの場は! 璃依は足を踏みつけ、一気に間合いを詰める。そして、拳を放とうとしたが、まるで瞬間移動のように、兎の姿が消えた。そして次の瞬間には、背後にその気配が現れる。咄嗟に振り向いたが、兎の突進を受け、璃依は放送室の壁に叩きつけられた。 苦鳴を上げながら起き上がると、さらに、突進してくる。体重がのしかかり、呼吸が苦しい。なんとか蹴り飛ばして、払いのけ立ち上がる。また突進してくるのを、身をかがめて、かわしすり抜け、機材室の出入り口まで行く。 振り返ると、また兎が跳びかかってくる。それをまた、背を低くしてかわすと、すぐさま、璃依は振り返った。兎の背が見える。ほとんど動物的反射でその背に体当たりをすると、兎が体勢を崩し、廊下へ飛び出した。気合いを込め、璃依はステップを踏み、兎めがけて跳び蹴りを浴びせる。 白い水滴のようになって、兎は爆(は)ぜた。 インジケーターはアクアマリンの点灯のままだが、すでに璃依は疲労困憊だった。 限界まで気力を使ったようだ。 白い影は相変わらずマイクの前で何か喋っていたが、やがて、霧のようになって消えていった。
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