九月に入って、まだ数日だっていうのに、もう「七不思議事件」だ。 猿橋によると、「クルーズ船の事故で、危機に陥ったから、必死で儀式をしたんだろう」ってことだった。その事故は、俺たちも知ってる。県内制作の報道番組は毎日のように大きく取り上げてるし、詳しくは知らねえが、学園の生徒も記者に追っかけられたヤツとかいるらしい。 それはともかく、今回の被害者は普通じゃない。これまではたいてい三〜五人、多くても七人前後だった。しかし、今回は十六人! 発生した事件も、確認の取れたヤツは以下の三つだ。
・深夜、調理室で何かを料理している女子生徒。 ・放課後、本校舎と研究舎の廊下を、同時に走り回る男子生徒。 ・深夜、校舎のスピーカーから流れる、奇妙な放送。
複数が同時に発生したことは、確認できる限り、これまではなかった。これも「必死に祈ったこと」が関係しているのか? なんにしても、潰さねえとならねえ。 なので、気配が濃厚な調理室へ行くと、そこで、白い影が何かしている。早速、志勇吾がゴーグルをつけてそいつを見たんだが。 「……視えない!」 志勇吾が息を呑んだ。 「視えないって、どういうことだ、それ?」 いったん、スペードマークの光を消し、ゴーグルを外した志勇吾が言った。 「なんか、妙な赤色の『霞(かすみ)』のようなものが覆っていて、奴のプロフィールが隠されてるんだ!」 思い切り戸惑っているのがわかる。 これは今までとは違うのか……? 「鮎見!」 俺が言うと、鮎見がチョーカーのスイッチを入れ、呪(まじない)歌(うた)を唱える。その一、二秒後だった! 声なき悲鳴を上げ、鮎見がのけぞる。 「詠見ちゃん!」 鮎見の背を支えるようにして、璃依が抱えると、鮎見の喉から、本人のものとは思えない、しわがれた声がした。 『こちらも、筋は通さねばならぬ。もう、邪魔はさせぬ……。させぬぞォォォォォォォォォッ!!』 そして、痙攣(けいれん)し、鮎見は気絶した。 「詠見ちゃん! 詠見ちゃん!」 泣きそうな声で鮎見の名を呼び続ける璃依から視線を外し、俺は電磁調理器の前でフライパンのようなモノをいじっている白い影に宣言した。 「すまねえ。あんたの無念、なんとかしてやりてえけど、こっちにも都合があるんだ」 スマホに「次元断裂剣−2nd.Spec」を呼び出し、ガントレットにセットする。右手に現れたのは、「D・B」先週号で登場し、邪将(イヴィル・ロード)の一体を華麗に葬った、主人公のニューアームズだ。 息を整え、俺は踏み込む。そして、剣を振り上げたその瞬間だった! 白い影の前に赤色の霞が生まれたかと思うと、それが一つの形になったのだ! それは、俺の目には、人間の倍ぐらいはある、赤色のブタに視えた。 ブタが俺に向かってくる。そいつに向かって剣を振り下ろしたが、その勢いに負け、俺は吹っ飛ばされた。 「太牙!」 璃依の声が聞こえた。 「大丈夫だ!」 起き上がった俺は、念を込め、左手に青く透き通る結晶体を出現させた。「次元断裂剣−2nd.Spec」で使うエナジー・クリスタルだ。それを鍔と剣身の境目にあるくぼみにはめ込む。剣身が複雑に展開し、そこに現れたスリットから青い光があふれる。俺はその剣を振り下ろした。特に念の集中を必要とせず、周囲の空間ごと、斬ることができる技だ。 その一撃を受け、ブタはチリヂリになって消える。しかし、調理台の前にいる白い影は霧のようになって、消えていった。直感的に、「一時撤退した」だけだというのがわかった。 「クソッ……」 俺が毒づいた時だ。 ゴーグルを装着した志勇吾が言った。 「……太牙」 「どうした?」 「放送室にも、現れてる。あと」 と、本校舎の方を指さす。調理室は、研究舎の一階にあるが、その窓から本校舎の二階が見える。白い影が行ったり来たりしていた。 「……同時発生か……」 俺は上を見る。そして、瞬間で判断した。 「璃依、放送室の方は頼む!」 「わかった!」 「志勇吾、悪いが、鮎見を!」 志勇吾が頷く。 俺は一旦、ガントレットからスマホを外し、調理室の窓を開けて、中庭へ飛び出した。
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