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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第81回   CASE11・1
 刑事課の鳴嶋巡査部長は、その夜、一人で、デスクで事件の整理をしていた。
 桑原麻枝の死因は、失血死。正確に言うなら「手首の動脈を切断し、それを水に浸けることによって、血液の凝固力が失われ、出血し続けたことによる、出血性ショック死」である。
 午後九時の電話から判断して、麻枝が自殺したのは午後九時以降、ということになっているが、妙な点が見られた。
 頭部に付着していた繊維。よく調べると衣服からも検出され、それを調べると、ある寝具メーカーが販売している毛布に使われている繊維と、同じものであることがわかった。だが、麻枝の部屋には該当する毛布が一枚もなく、また、外出着を着た状態で、頭髪にまで繊維が残るほど毛布にくるまる、という状況も、不自然だった。
 ここから「麻枝は自殺に見せかけて、殺害された」ということになった。本人すら知らなかったようだが、麻枝は、妊娠のごく初期にあった。この事実が明らかになると、都合の悪い人物が一人。
「子どもの父親が、乾武繁だとすると……」
 DNA鑑定が出来ていないが、もしそうだとすると。
「武繁には、乾ホールディングスの次期社長の椅子が待っている。愛人の麻枝が何らかの事情で邪魔になり、自殺に見せかけて殺した……。でも、電話のアリバイがあるか……」
 前日、聴取したところでは。

「あの日は、何だかむしゃくしゃしまして、仕事が終わったら、社用車を借りて、別宅まで行ったんです。……ああ、私、自家用車を二台持っていまして。一台は別宅の方に常に置いているんですが、もう一台、自宅にある方が、調子が悪くて、その日は家において、朝はバスと市電を使い、申し訳ないと思いながらも、帰りは社用車を借りて、別宅の車を取りに行ったんです。特に目的があったわけじゃなくて、ただ、車を転がしてましたので、誰かと出会ったとか、そういうのはなくて……。ああ、でも、九時過ぎにコンビニに寄りました。中央二丁目の、市電駅前にあるコンビニです。時間は……。よく覚えてませんが。調べていただければ」

 なので、調べた。確かに中央二丁目の市電駅前にあるコンビニの防犯カメラに、武繁の姿が映っていた。時刻は午後九時十六分。麻枝のマンションからそのコンビニまでは、車で二十分ほど。もしかしたら十六分でも行けるのではないか、と試したが、最短ルートを使い、さらに交通状況がよかったとしても、二十分かかった。つまり、麻枝が電話をかけていた時に、武繁はそばにいなかったことになる。あのような電話をかけさせることは出来ない。
 前もって九時に電話するように指示しておいて、コンビニを出たあとで、マンションへ向かい、殺害したと仮定し、行動を洗ってみたが、それも不可能とわかった。麻枝のマンションから武繁の自宅まで、車でおよそ二十分。コンビニからマンションへ行って殺害を終え、自殺に偽装して、すぐに自宅へ帰ったとすると、帰宅時間は午後十時頃。だが、午後九時四十分頃に武繁が帰ってきたところを、近所の会社員が目撃していた。もっとも、この会社員が見たのは、車であって、武繁本人ではなかったそうだ。
 もしかしたら共犯者か、と思ったが、現時点でそのような人間は浮かんでいない。また、もし車を運転していたのが共犯者だったとしたら、武繁はどうやって、自宅へ帰ってきたのか。市内のタクシーを当たってみたが、午後九時から十一時まで、武繁の自宅周辺で客を降ろしたタクシーはなかった。
 これについては、一応、継続捜査になっているが、何かが出てくる可能性は極めて低い。
 留守番電話を確認したら、「この道」のメロディチャイムが入っていた。話によると、麻枝は社長室にあるものと同じ時計を購入したという。この時計は十二曲、メロディが入っていて、午前及び午後の正時ごとにメロディが鳴るという。だが、設定によって一つのメロディだけを鳴らすことも出来る。社長室の時計も、麻枝の部屋の時計も、「この道」一曲に設定してあった。ならば、もしかしたら、あの電話は「いぬいクルーズ」の社長室からかけたものだったのではないか? そこからコンビニ経由で麻枝のマンションへ行ったとしたら? 「いぬいクルーズ」からそのコンビニまでは、およそ十分程度だ。武繁も社長室から同行し、マンションへ向かったとしたら?
 だが、そうだとしても、やはり午後九時四十分に武繁が帰ってきたという証言がネックになる。
 それに、念のため、警備員に確認したところ、武繁は十七時五十分、麻枝は十八時に退社し、社には戻ってきていないという。
 これについては、表玄関、及び、通用口にある防犯カメラを確認した。窓から侵入しようと思えば、できなくはないが、どの窓も内側から施錠してあり、しかも鍵はクレセント錠だったから、外から施錠などということはできなかった。
 唯一、「普段は別宅に車を置いている」という証言だけは疑問点が出た。近所の人の証言では、事件の日の朝に、その車を武繁の自宅付近で見た、ということだったが、これがなにかの決め手になるとは思えなかった。
「何か、決め手があれば……」


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