しばらく休憩した俺たちは、再び坂道を上り、湖に着いた。管理事務所のおじさんに挨拶して、中に入る。釣り目的じゃないけど、一応入場料一六〇〇円(学割で半日券)を払った。 中に入ると、長径二百五十メートル、短径百八十メートルの楕円形の湖が迎えてくれる。入場料の高さに鮎見が何だか文句を言っていたが(「一六〇〇円あったら、ホルベインのチューブが三本買えるわ」とか意味不明な呪文を唱えていた)、湖を見て、さらに不機嫌な顔になった。 「絵のモチーフにするのには、面白味のないところだわね」 まあ、そういう目的で、こいつをここに連れてきたわけじゃねえしな。 あちこちを見ていた鮎見が言った。 「ねえ、あのボートが浮いてるプールみたいなのは? 何?」 それに答えたのは、璃依だ。 「あそこが養殖池だったところ。湖から水を引いて、養殖してたんだって。今は、湖の中央辺りに行くのに使うボートを係留してるそうよ」 係留池の広さは五十メートル四方。ただし、深さは二・五メートル。もっとも、元々は縦五十メートル、横二十メートルサイズの養殖池が、二つあったらしい。複数のボートを係留するのには、ちょっと狭いんで工事して繋げて、五十メートル四方にしたんだそうだ。 「さて、と。なんか、感じるか、鮎見?」 俺が言うと、鮎見は「ちょっと待って」と、トートバッグからチョーカーと白い布と錦袋を出す。 今日、ここに来たのは……
「実はさ」と、流しそうめんのあと、俺と璃依は鮎見に話した。ちなみにこの「イベント」には、町の小学生たちも参加してたんで、なんか、ほとんどそうめんを食えなかった。だから、今、俺たちはスーパーで菓子パンを買って、ある川の川原でパクついてる。 「この町の北西にある山の三合目辺りに、湖があるんだけどな」 「湖?」 「ああ。そこにさ、昔からなんかの気配があるんだよ」 俺がそう言うと、璃依があとを続けた。 「おばあちゃん……ああ、あたしのおばあちゃん、この町で拝み屋やってるんだけどね、おばあちゃんは『たいしたことないから、放っとけ』みたいなこと言ってたんだけど。なんか、気になるんだ。あたしも太牙も『視る』とか『知る』能力は弱いからさ。詠見ちゃんなら、何か、わかるかも、って思って」 ハムサンドをかじって、ちょっとモゴモゴさせ、飲み込んで、鮎見は言った。 「なんかの生け贄になった人とかの怨念だったら、パス」 「なんだ、それ?」 俺がそう言うと、鮎見は、しれっと言った。 「こんな田舎町なら、よくあるじゃない、『鎮守の神様』だか、『古くからいる土地神様』だかの怒りを鎮めたり、町の繁栄を祈って、若い娘を生け贄に捧げるとかって」 フルーツサンドを頬張った璃依が、ちょっと笑って言った。 「スッゴイ偏見だね、詠見ちゃん」 まったくそうだ。俺は、こめかみの辺りを指でかきながら言った。 「お前が、『田舎町』をどう定義してるかわからんが、この町にそんな伝説はない。……ただな、ちょっと気になる話を耳にしてるんだよ」 鮎見が首を傾げる。
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