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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第73回   CASE10・5
 八月下旬。
 俺と璃依は実家に帰省した。もっとも、俺たちだけじゃなく、鮎見も一緒だ。
「やっぱり田舎よね。……いいなあ、ド田舎って」
 と、ほめてんのか、喧嘩売ってんのかわかんないことを言いながら、鮎見はこの町唯一の旅館に行った。
「なあ、鮎見の奴、自分の故郷(くに)に帰らなくてもいいのかな?」
 俺がそう言うと、璃依が微妙な表情になった。
「うーん、詳しく聞いてないし、言いたがらない雰囲気だったんだけど。なんとなく、お父さんと顔を合わせたくない、みたいな感じだったわ」
「ふうん」
 まあ、家庭の事情は、人それぞれだからな。
 時刻は午後四時。美台市から遠いし、ここ自体が交通の便が悪いところだから、朝早くに出たにもかかわらず、こんな時間になった。
 明日、天気がいいという。鮎見は、この町の景色を写生したいと言っていたな。

 翌日、午前十時。鮎見は璃依と一緒に風景の写生に出かけたという。俺は。
「どうもっす。お久しぶりッス」
 この町の「よろず相談所」に来ていた。ここは昔「久能木(くのぎ)祈祷(きとう)所」みたいな看板が掛かっていたんだが、数年前に「よろず相談所」に看板が変わった。
 もともとは、不動(ふどう)尊(そん)を祀(まつ)るお堂で、璃依のおばあさんがやってる、ある種の「講」だったそうだ。だから「良縁成就」や「商売繁盛」のご祈祷なんかをやってたそうだけど、いつの間にか「人生相談」みたいなものをする人も来るようになって、看板を変えたらしい。
 また、その方が抵抗感なく、来られる人もいるんだそうだ。
「やあ、太牙くん。久しぶりだねえ」
 と、笑顔で迎えてくれたのは久能木(くのぎ)恵磨(えま)さん。璃依のお姉さんで、俺に生体エネルギー実体化のヒントをくれた人、で、去年からこの相談所の所長さんをやってる女性だ。年は真条さんとあんま変わんなかったと思う。
「どう、所長業は?」
 俺が冷やかすと、恵磨さんは苦笑いを浮かべた。
「勘弁してよ。『そろそろ楽隠居がしたい』とか言って、私にここの仕事押しつけて、自分は講の皆さんと一緒に、温泉とか行ってんのよ、あの婆さん。私みたいな小娘に、人生相談がつとまるわけないじゃん。せめて、父さんか母さんか、どっちかが跡目継いでくれてたら、私もこの町から出て行けたのに」
 いろいろとたいへんらしく、しばらく、愚痴を聞かされた。
 で、道場で、麦茶を飲みながら、俺も近況を話した。七不思議事件の背後に、ゲーティアの悪魔との契約があるらしいこと、乾理事長が関わっているらしいこと、七不思議の実体化には周期性がまったくないけど、それはおそらく理事長が悪魔召喚の儀式を行ったら、発動するからじゃないかって推測が立ってること、などなど。
「あくまで推測なんだけど。乾が繁栄を続けるためには、悪魔への生け贄が必要で、その生け贄が生徒たちの生命エネルギーだから、儀式をやって生徒が昏睡状態になって、生命エネルギーが吸われてるんじゃないかって。今はそういうことになってる」
 俺がそう言うと、恵磨さんも「たいへんね」と笑った。
「笑ってるけど、マジで深刻なんだぜ?」
 と俺がボヤくと、恵磨さんは「ゴメンゴメン」と、ちょっと苦笑い。
 風が風鈴を鳴らし、蝉時雨が空を回る。喉を通る麦茶が、空から注がれる陽光を、わずかながら清涼感を持ったものに変える。
 不意に、恵磨さんが言った。
「ねえ、璃依とは、どうなの? キスぐらい、すませた?」
 真条さんもそうだったけど、恵磨さんもそうか。
「え、と。俺と璃依は幼馴染み以上じゃないよ?」
「うーん、本当にそうかな?」
 と、恵磨さんは笑顔になる。
「多分、太牙くんは、自分で気がついてないだけだと思うな。それに、少なくとも璃依は、太牙くんのことを『男の子』として見てるわよ」
「そうですか?」
 なんか、いろいろ実感わかねえけどな?


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