美台署刑事課の巡査部長・鳴嶋(なるしま)一嗣(かずし)は、第一発見者である乾夫妻に、その部屋のリビングで話を聞いていた。 「では、彼女の自殺の原因は、あなたにあると?」 乾武繁の発言に、鳴嶋はメモを取りながら聞いた。 「はい」 と、頷きながら、武繁は言った。 「私、毎月、自分の給料から、万が一のための予備費のような形で、口座に入金しているんです。そのことを知っているのは、私と彼女……桑原くんだけで。今日、何気なく通帳を確認したら、二百万もの大金が引き出されていて。もちろん、私は引き出した覚えはありません。通帳のことを知っているのは、彼女だけですし、今日の夕方、つい詰問するような口調になってしまって。でも、彼女、何も答えなくて。……彼女を、口汚く罵ってしまったんです。また、日を改めて、じっくり話を聞きたい、と、伝えたんですが……」 次に、鳴嶋は武繁の妻、寿子に聞いた。 「奥さんは、その通帳のことは?」 「いいえ、存じません」 寿子の顔はまだ青かったが、それでもしっかりとした口調で答えた。 「それで、刑事さん」 と、武繁が言った。 「彼女の部屋に、角零(かくゼロ)の封筒があって。まだ中は確認してないんですが……」 「ああ、それなら」 と、鳴嶋は鑑識からの報告を言った。これぐらいなら、言っても差し支えないだろう。 「中に長三の封筒が四つ。さらにその中に、帯封のない現金の束がありました。数は数えてませんが、厚みから見て、一つ当たり、おそらく五十万ほどではないか、と」 言いながら、武繁の言葉との符号を感じ、鳴嶋は続ける。 「最近、彼女が何かに悩んでいたような様子は? 例えば、何らかの理由で、急に大金が必要になったとか、あるいは、男性関係とか?」 その言葉に、武繁はチラ、と寿子を見る。何か、言いづらいことでもあるのか、武繁は口をつぐんだままだ。これは、個別に話を聞いた方がいいか、と思っていたら。 寿子が言った。 「主人と、桑原さんは、愛人関係にありました」 ストレートな答だった。まだ青い顔ながら、寿子は理路整然と話す。 「私、二年ほど前から、そのことに気づいていたんですが、どうせ一時(いちじ)の遊びだろうと、放置していたんです。ですが、このほど、主人に出世の話が持ち上がりまして。これは身ぎれいにしておかねば、と、近いうちに彼女に主人と別れていただくよう、お話しするつもりでした」 「つもりでした、ということは、まだ実際には、お話はされていないんですね?」 「はい」 寿子はこう答えたが、実際はわからない。確認の必要があるだろう。そう思い、鳴嶋はいったん、その場を締めることにした。 「今日はお疲れのことと思います。また明朝(みょうちょう)、詳しいことをお伺いしたいのですが」 「あの、刑事さん、私には一応、立場というものが……」 「『いぬいクルーズ』の社長さんでしたね? ご安心ください、個人情報の保護は徹底しておりますので」 その言葉に、武繁は一礼する。
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