麻枝のマンションまでは、車で二十分。 到着し、部屋の前まで行く。チャイムを鳴らすが、応答がない。ドアを叩いても、返事らしきものがない。それに鍵もかかっていた。武繁が鍵を出した。数瞬後、不機嫌そうに武繁が言った。 「鍵を持っていたって、今さら、怒ることはないだろう?」 「怒ってなんかないわよ。それより早くドアを!」 頷き、鍵を開け、ドアノブを回す。ドアチェーンは、かかっていなかった。つまり、外から施錠した可能性が高いということだ。 「どこかにお出かけしてるんじゃないの?」 「かも知れんな」 そして、開きかけたドアを閉め、一度は帰ろうとしたが。 「……何か聞こえないか?」 不意に、夫がそんなことを言った。なので、耳を澄ましてみる。どうやら、テレビの音らしかった。 テレビをつけっぱなしにして外出、というのも有り得ないことではないが、あのような電話のあとで、不自然な感は否めない。 二人はドアを開け、そのまま、中に入った。玄関口の照明は消えていたが、キッチンの照明はつけっぱなしだった。 夫は、まず彼女のプライベートルームへ向かったが、寿子は手近な部屋から見ることにした。まず、洗面室。照明をつける。だが、人影はない。次は、その奥にあるバスルーム。照明をつけ……。 思わず悲鳴が出た。 それを聞いたのだろう、夫が駆けつける。そして、武繁も「それ」を見て、息を呑んでいた。 真っ赤に染まった液体が張られたユニットバスの中に、左手を差し入れて、動かなくなった麻枝の姿がそこにあった。
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