火曜日、午後一時。 紫緒夢と志勇吾は市内でデートをしていた。 いや、デートといえるかどうか、微妙だ。少なくとも、「想い合う二人の、甘い時間」といった空気は微塵もない。仲の良い友だち同士が、街に遊びに来ている、というのとも、どこか違う。 お見合いで知り合った二人が、仲人から「じゃあ、あとは若い二人に……」などと言われて放置され、やむなく街へ繰り出した。 そんな感じだろうか? かつてドラマか何かで見たような、そんな固いものを感じながらも、それでも紫緒夢の心の中には、ちょっとした高揚感がある。 まずは駅前のバーガーショップで軽く食事をとったあと、中心街にあるシネマコンプレックスへ。前から観たいと思っていた映画は、残念ながらすでに上映期間は過ぎていたが、それでも志勇吾と同じ映画を一緒の空間で観て、一緒の時間を共有出来ることが、嬉しい。 映画館を出ると、もう三時四十分になっていた。 どこかの喫茶店へ、と思ったが、志勇吾が「近くの児童公園へ行こう」と言ったので、そこへ行くことにした。 公園は、幼稚園児らしき子を連れた親子連れが数組、小学校低学年と思しき子どもたちが、十人ぐらいいるだろうか。広さはそこそこだ。紫緒夢が通う高校の、体育館ぐらいあるだろうか。 しばらくは、遊んでいる子どもたちを見ながら、映画の感想や紫緒夢の高校でのことなどを話していたが。 不意に、志勇吾が黙り込んだ。そして。 「唐突だと思うだろうけど。でも、聞かせてくれないか? 君が……」 志勇吾が紫緒夢を見る。 「ゾディアックなんだろ?」 ……。 うすうすは感じていた。 前回、行ったとき、志勇吾が自分を見る目が何かを確信しているようであったが。 息を整え、少しだけ長い息を吐いてから紫緒夢は答えた。 「……FACELESSのデータを、教えてもらってたの。中に一人、『透視能力』を持った者がいて、その人物の『目』には、相手のデータが見えるって。名前は『春瀬志勇吾』だって。例のボクシングの影が現れた時、君を見て、心臓が止まりそうになったわ。まさか、あの時見かけた人が、FACELESSの一員だったなんて。でも、気持ちが抑えきれなくて。だから摩穂にお願いして、君のこと、調べてもらったの。君が透視能力者の春瀬くんだってわかったとき、正直、悩んだけど。やっぱり、自分の気持ちに、フタはできなかった」 そして、また長めの息を吐き、言った。 「君たちが何をどこまで把握しているかわからないけど。私は、頼まれたことをやっているだけ」 「頼まれたこと?」 志勇吾が問う。頷き、しばし考えて。 紫緒夢は言うことにした。 「これを見て」 と、財布から、ラミネート加工したものを見せる。
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