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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第62回   CASE8・4
 木曜日の夜に実体化した「深夜、朝礼台の上で演説らしいものをする白い影」については、その正体はわかった。
 金曜日の夜、俺たちは学園に来ている。
「四年前、今田(いまだ)保(たもつ)、北森(きたもり)弥生(やよい)、病気、漫才同好会設立」
 志勇吾の読んだ情報だ。そして鮎見が札を取ったんだが、今回は三枚も出てきた。百人一首から二枚、京がるたから一枚。それは。
「わびぬれば 今はたおなじ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ」
「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」
「笑う門には福来たる」
 そして、鮎見が札を手に「神降ろし」をした。
『ごめんね、弥生ちゃん。約束、守れそうにないや。きっと君の笑顔を取り戻してあげるって言ったのに。きっと再会できるよな?』
 それを聞いた璃依が記憶の底をさらうように、「うーん」と唸ってから、スマホをいじる。
「確か、放送部のアーカイブに……。ああ、ダメ、あたしのスマホじゃ、解凍できない」
 すると、鮎見がトートバッグからFACELESSの備品であるタブレットを出した。そしてケーブルを出し、璃依のスマホと繋ぐ。データを転送して、何か処理すると。
「出たわ」
 俺たちに画面を見せた。それは、放送部の定期活動である、「新規部活動への情熱」みたいなコンテンツだった。
「なんだ、これ?」
「毎年、必ず何件か新規部活動とか、同好会設立の趣意書が生徒会に上げられるのね。それを取材するの。取材対象の生徒も、こうやって放送すれば注目も集められるし、快く応じてくれるんだ」
 そこに映っているのは、当時三年生の「今田保」先輩だった。先輩は漫才同好会を設立したいので、協力をお願いしたい、みたいなことを訴えていた。固有名詞こそ出てねえが、自分の命を削ってでも、大事な人を笑わせたい、みたいなことも言っている。
「なるほど、同好会が設立できなかったのが無念だったってことか。でも、それじゃあ、もう一人の『弥生』って人との関係はどうなるんだ?」
 俺がそう言うと、鮎見が答える。
「漠然と伝わった限りだけど。その『弥生』って人のために、漫才をやりたいみたい」
 なんか、ちょっとややこしそうだな。
 俺は少し考え。
「ダメ元で猿橋に調べてもらうか。過去の学籍簿から、なんか、わかるかも知れねえ」

 で。
「すげえよな、猿橋(あいつ)の情報収集力。ひょっとして国家権力と結びついてるんじゃねえの?」
 翌週月曜日。俺たちは深夜の学校に来ていて、朝礼台の上で何か演説みたいなのをやってる白い影の前にいた。
 一応、猿橋にメールしておいたんだ。そうしたら、今日の夕方、あいつからメールが返ってきた。で、璃依たちにも連絡とって今、ここにいるわけだ。
 俺は猿橋から送られてきたメールを読む。
「簡単に言うと、今田先輩は二卵性双生児で、妹さんの名前が弥生さん。でも、中学の二年の時にご両親が離婚して、弥生さんはお母さんの方に引き取られて北森弥生になった。弥生さんは市内の別の高校に進学したけど、二年の時に事故に遭って、右手を複雑骨折。この時のことは、市内の新聞にも載ったそうだ。猿橋が何をどう調べたのかわからねえが、弥生さんはジュエリーデザイナーを目指していたらしい」
 と、俺はみんなを見た。
 みんな、沈痛な表情だ。
 鮎見が白い影を見上げる。
「落ち込んで心を病んだ妹さんの笑顔を取り戻すために、漫才をやろうと思ってたのね」
 となると、妹さんを連れてきて、ってことになるんだが。
「ねえ、太牙。妹さんの……弥生さんの居所はわからないの?」
 俺は首を横に振る。
「さすがに猿橋もそこまでは掴めてねえらしい。高校卒業後、母子揃って引っ越したらしいし。もう少し時間があれば、猿橋の情報収集能力なら、何かわかるんだろうけど、他校の生徒じゃあなあ……」
 それこそ、弥生さんが通ってた学校に問い合わせたり、興信所に依頼したりすればわかるんだろうが。
 その時、何かを考えていた志勇吾が、夜空に向いて言った。


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