美台学園には「学区外二十人枠入学」っていうものがある。高等学校には、たいてい「学区」っていうものが設定してあって、その範囲内での入学を受け入れている。でも私立の高校には、基本的には、そういうものはない。 だけど、ここ美台学園には、その学区が設けてある。理由は「地域の発展・人材の育成に貢献する」ことを、開学の理念に掲げているからだ。もともとこの学園(正確には「学校法人」)が乾金融総合、つまり乾ホールディングスを母体としているからで、創立者の乾誠介が、「この地域のおかげで乾の発展がある」としたからだ、とされている。 ただ、時代とともにいろいろ変わっていくのが実情で、学区外からの入学も受け入れるようになった。「広く人材を受け入れる」ってことだが、まあ、本当のところは。 「悪魔との契約書の内容」に関係あるんじゃないか、って思う。契約書の内容が具体的にわからねえから、断言はしねえが、例えば「○○人」なんていう条件が一部の記載にあって、その条件を満たすためには、学区内の入学だけじゃまかなえないからじゃねえか、って俺たちは考えている。 学区を全面的に撤廃しねえのは。これは、わからない。ひょっとすると、「一定のエリアに、昔から居住する人間の命を、主な対象とする」みてえな一言(いちごん)でもあるのかも知れない。 まあ、要するに、今の学園には、他の地域から入学している生徒が少なからずいて、そういう生徒は夏休みには、故郷(くに)へと帰省する。俺たちも他の地域から来ているわけだから、夏休みには、帰省するのが普通だが。 俺たちFACELESSは、基本的に夏は帰省しない。ていうか、できない。帰省している間に「不思議事件」が起きたりしたら、そっちを優先させねえとならねえからな。 ただ、完全に帰省が出来ねえかっていうと、そういうわけでもなくて、毎年、八月の後半、だいたい二十四、五日以降から九月の中頃までは、「不思議事件」は起きないらしい。あくまで、これまでの統計的なものだが、FACELESSのファイリングが開始された八、九年前からはその時期には事件は起きてねえんだ。 その理由は「不明」ってなってるが、今は見当がつく。 八月の中頃、お盆がある。不思議事件の背後には、乾理事長がいて、その人は会社社長(「いぬいクルーズ株式会社」の社長さんだそうだ)。さすがにお盆に、悪魔召喚の儀式はしねえだろう。儀式を行って、数週間程度のスパンで事件が起きてるとすると、お盆の時期に儀式をしないとすれば、その後、数週間は不思議事件は起きない。 こういうことなんじゃねえか、と思う。 あと、根本的なところ。 こんなに「七不思議の呪い」みてえな噂が広まってんのに、確認に行く生徒が絶えない理由。前は「ガキどもが多いんだなあ」ですまされてたところ、あるいは「七不思議現象が引き寄せてる」っていう仮説があったりしたんだが。 悪魔が絡んでるんなら、これは、思った以上に深刻な事態かも知れねえ。 本気でアークをなんとかしねえと、おそらく「七不思議の呪い」にかかる生徒は生まれ続けるからな。
で、八月第一週のアタマ現在の「七不思議」なんだが、整理すると、妙なことになってる。もちろん、目撃者や、新聞部、学園の掲示板(いた)の情報をチェックするわけだから、確実なものじゃない。いくつか潰し、新たに発生し、なんてことが起きているから、未整理の部分がある。それでも、目撃例の多いものをまとめると「七つ」になるんだ。 でも、今、発生していると思しきものは。
・深夜、調理室で何かを料理している女子生徒。 ・深夜、朝礼台の上で演説らしいものをする白い影。 ・武道場で、試合をする剣道部員。 ・放課後、本校舎と研究舎の廊下を、同時に走り回る男子生徒。 ・今は閉鎖されている旧講堂で、雨の夜に上演される謎の芝居。 ・深夜、校舎のスピーカーから流れる、奇妙な放送。
この六つは、ほぼ確定してる。ただ。
・深夜、昇降口で何かをまき散らす女生徒。 ・裏庭のどこかを指さしながら、不気味に笑う女生徒。
この二つも、報告例は少ないみてえだが、それでも一定数、あるんだよな。 全部で八つ。 もしかして「八不思議」になっちまったのか?
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