『お困りのようね』 電子的な残響を持った、そんな声が背後からした。振り返った俺たちが見たのは。 鮎見が眉を険しくして言った。 「ゾディアック……」 そこにいたのは、翼を生やした女。 ……ああそうか、こいつなら。でも、こいつが手伝ってくれるかどうか……。 俺は璃依を見た。璃依が頷く。志勇吾も同じことを考えてたみてえだ。同じく頷き、ゾディアックを見た。 俺は言った。 「なあ、ものは相談なんだが」 『なに?』 俺は自分たちの考えを伝える。 『どうしようかしらねえ? この間は、あなたたちに、ひどい目に遭わされたし?』 ゾディアックが、わざとらしく悩んでみせる。 うぐ。でもあれは。 璃依がムッとなって言った。 「あれは、そっちが先に手を出したからでしょ!?」 するとゾディアックは、はめてもいねえのに腕時計を確認する振りをして、 『あら、たいへん、もうこんな時間! 早く帰らなくちゃ!』 なんてことを抜かしやがった。 くっ、コノヤロウ……! こうなれば、頭を下げるしか……。そう思ったら。 志勇吾が姿勢を正し、頭を下げた。 「頼む! この間のことは謝るから、力を貸して欲しい」 ……。そうだな。 俺も頭を下げて言った。 「頼む」 璃依も頭を下げた。 「お願いします。今、昏睡状態になってる生徒を助けたいの!」 鮎見も、頭を(なんか、不承不承ぽかったが)下げた。そして、起き上がって言った。 「このままの状態は、あの『影」の主(ぬし)にとっても、いいことじゃないわ。希望を抱かなきゃ。そうでしょ?」 しばらくして。 『まあ、いいわ。私も、あの一回を欠席したぐらいで、どうにかなるほど、ヤワじゃないし』 一回? 欠席? なんだ、それ?
で、ゾディアックが影のところまで飛んで行った。「術後経過」がどうの、「リハビリの手法」がこうの、「メンタルケアの重要性」だとか、「今はサポート体制がしっかりしている」、さらには「ショウナ・コクシーという選手」がどうたらこうたら言ってたんだが、しばらくして、影が光の粒になって空に吸い込まれていったから、解決したんだな。 地上に降りてきたゾディアックに俺たちはまた頭を下げて礼を言った。ゾディアックはなんだか照れたように『これぐらい、どうってない』とか言ってた。なんとなく、志勇吾に言ったように見えたが、位置的に志勇吾の傍に着地してたから、そうなっただけだろう。 そして、奴は帰っていった。 「さて、と。それじゃあ、今日も探索するか?」 俺たちは、七不思議事件が発生したときには、ついで、といっちゃあなんだが、アークの探索もすることにしてる。日中は雑音だの雑念だのが多くて、集中できねえし。静かなのは深夜だが、俺たちが深夜の学校に入れるのは、七不思議事件が起きたときのみ。そうでないと、真条さんもその権限を発動できないからな。 志勇吾がゴーグルをかけ、スペードマークを光らせる。といっても、志勇吾は特定の何かの情報を「読む」能力に長(た)けているのであって、俗に言う霊査能力があるわけじゃねえ。鮎見も、対象が特定されたときにのみ、その詳細を突き止めるっていう能力なんで、広範囲にある何かを探すっていうのには、向いていないそうだ。俺や璃依は、生体エネルギーの実体化っていう方向性だし。 それでもやらないよりはマシってことで! しばらくして。 『いい加減にしてくれるかなー!!』 電子的な残響を持った声が降ってきた。 鮎見がきょとんとなって言った。 「ゾディアック? あんた、帰ったんじゃないの?」 『自動発動なのよ、これ!』 そして、剣を構える。 『悪いけど、いい子は早く、おうちに帰ンなさい!』 なんなんだ、こいつは!?
そのあとは。 「D・B」の最新話で出てきた新しいアイテム「次元縛鎖」(次元壁ごと、相手をくくるアイテムだ)で動きを封じ、璃依の跳び蹴りで奴を消滅させた。 「璃依」 「何?」 「このところ、跳び蹴りでとどめって、バッタの改造人間みてえになってきてんぞ、お前?」 「……うっさいわ!」 璃依の回し蹴りが俺の胴を打った。 結局、この日も、時間切れで、アークのヒントは掴めなかった。
(CASE7・了)
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