志勇吾の目の前にいるのは。 「え、と。君は、誰?」 背が高く、眼鏡をかけたスレンダーな美少女。摩穂同様、髪は長めだが、こちらは、少々癖があるように見える。着ているのは、オレンジ色のサマーニットに、膝丈のデニムスカートとカジュアルだが、明らかに薄い化粧をしているのがわかった。 少女は、ちょっとはにかんだように言った。 「あ、あの、私、磨楠(まぐす)紫緒夢(しおん)っていうの。摩穂とは従姉妹同士で。……ねえ、君は……、春瀬くんは、年上とか気にする方?」 「え? 気にするとか、しないとか。そもそも、俺、あなたのこと、知らないし」 そう答えると、少女は少し、考え、 「そうね。そうよね、君は私のこと、知らないもんね」 と言った。そして、咳払いをして続ける。 「私の名前は、磨楠紫緒夢。市立(いちりつ)砂鞠矢(さまりや)高校の三年生。……ああ、砂鞠矢市は、ここから、電車で二時間ぐらいかかるかな? 隣の県で、新幹線、通ってないから。九月十八日生まれの乙女座。……天秤座との相性はそこそこだけど、いくらでも、上向きに出来るから!」 と、このような調子で、一方的に話す内容から考えて、どうやら摩穂が収拾した情報は、紫緒夢に流れているらしい。というか。 「……もしかして、磨楠さんが俺にいろいろ聞いてたのって?」 その問いに、紫緒夢が頬を紅くして答えた。 「ごめんなさい。私が摩穂にお願いしたの、あなたのこと、調べてって」 「なんで? ていうか、俺、君と会ったことなんか、ないけど?」 ちょっとして、おどおどといった感じで紫緒夢が言った。 「摩穂がこっちに引っ越すときに、お手伝いしたの。その時、市内で制服姿のあなたたちのこと、見かけて。で、その……」 そして、意を決したように言った。 「一目惚れ、しました! あと、その時に携帯で隠し撮りもしました! ごめんなさい!」 志勇吾の脳内がフリーズした。 「で、そのあと、また、『ある場所』で見かけることがあって……」 そして、うつむき、上目遣いになって言った。 「私と、おつきあいしてください」 完全に志勇吾の頭の回転は止まっていた。
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