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| 昼、市内のバーガーショップで昼飯を済ませた俺と璃依は、街を適当にぶらついていた。で、何気なく「BiShop」の近くまで来たとき。 「あれ? 久能木さん?」
 男性の声がした。
 その方を見る。少しして。
 「……ああ、笠井(かさい)さん」
 璃依が笑顔になる。
 「誰だ?」
 「この間、……通り魔の事件の時、あたしの取り調べをした刑事さん」
 男性……多分、二十代後半かな?……が苦笑いで近づいてきた。
 「取り調べ、は、ないんじゃない? 事情を聞いただけだから」
 そして、俺を見る。
 「初めまして。美台署刑事課の、笠井っていいます。え、と君は?」
 「宇津太牙っていいます」
 俺が答えると、笠井さんはちょっと考え。
 「ああ、君もマルエフか」
 そう言って、頷いた。
 そして、ちょっとだけ、世間話のように通り魔の一件を話す。そのあと、璃依が「BiShop」の方を見て言った。
 「愛那(まな)さん、今日はお休みですよ? 毎週金曜日は、シフトから外れてるそうですから」
 「な、ななななな、何を言ってるのかな、久能木さんは!?」
 ……。
 わかりやすいな、この人。
 咳払いをして、笠井さんは言った。
 「僕がここに来たのは、グーゼンだから、グーゼン!」
 「ふうん?」
 璃依のニヤついた表情を見る限り、信じてないな? 俺も信じてないけど。
 少しして、観念したのか、笠井さんは言った。
 「え、と。真条さんって、誰かつき合ってる人とか、いるのかな?」
 「うーん」
 と考えてから、璃依は負った。
 「今はフリーだと思いますよ?」
 「今は?」
 「去年の秋頃、『男なんて、コリゴリ』みたいなこと、言ってましたから」
 「男なんて、懲り懲り……。もしかして、もう恋愛なんて、どうでもいい、とか?」
 あ。何か、不安そうな顔になってる。
 「それはない、と思いますよ? お喋りしてて、素敵な彼氏欲しい、なんて話題も出ますから!」
 璃依が笑顔で言うと、笠井さんは小さく「よしっ」なんて言った。
 つくづくわかりやすいな、この人。こんなに単純で、刑事とかつとまるのかな?
 
 志勇吾は、陸上部の活動を終え、帰路についていた。
 時刻は午後二時。夏期休業中の陸上部の活動は、今日は午前中になっている。これは、グラウンドを使う他の部活……野球部や女子ソフトボール部……との兼ね合いがあるからだ。したがって、違う日には、陸上部が午後から活動することもある。
 クラブハウスでシャワーを使い、買ってきておいた弁当を食べて、適当に休憩をしてから、志勇吾は学校を出た。
 志勇吾は途中にある自動販売機でペットボトルのフルーツジュースを購入し、それを飲みながら、スマホのメールを再確認した。
 
 『春瀬先輩。今週金曜日、午後三時に、駅前に来てください。部活がないのは、確認しています。絶対に来てくださいね』
 
 木曜日、終業式が終わったあと、着信したものだ。ようやく、彼女が行動を開始した、ということだろうか? 確かに彼女はかわいいとは思うが、志勇吾の恋愛対象かというと、そうではないような気がする。断ろうかと思ったが、それならメールより、直接言った方がいいだろう。
 そう思い、志勇吾は駅へと向かった。
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