俺はスマホをタップして、ソッコーで「時空断裂剣」を落とす。いつでも喚び出せるように、ショートカットを貼りつけてるからな。 画面が表示されている途中で、俺はガントレットにスマホをセットした。右手に剣が現れる。 自分でもほれぼれするタイミングで、ゾディアックの剣を受ける。そのまま、押し返し、俺は指示した。 「璃依!」 これだけで、理解したらしい、ブレスレットとアンクレットの光を輝かせ、璃依が飛び込んできた。しかし。 「太牙、あれ、剣! 剣だから!」 璃依の慌てふためいた声がした。徒手空拳VS剣。まあ、不利だわな。 「とにかく、時間、稼いでくれ!」 「無茶言わないで!」 ほとんど悲鳴に近い声を上げながらも、殴りかかるそぶりを見せてはかわし、蹴りを放つと見せて身を翻し、と、なんとか、相手を翻弄している。すまん、璃依! あいつが時間稼ぎをしている間、俺は念を集中する。直接、剣を当てなくても、空間ごと奴を斬る「技」を発動させるためだ。そして俺は再び叫んだ。 「璃依!」 剣を構えた俺を見て察した璃依が、跳びのく。俺は剣を振り下ろした! だが、その斬撃を奴は空に飛んでかわした。この「空間ごと斬る」技の射程範囲は、漫画(コミック)の設定では「半径五メートル」(連載最新話時点)。だが、今の俺の再現力では、一、二メートルといったところだろう。上空六、七メートルぐらいを飛び回る相手には、向かない。 「なら!」 俺はスマホをはずし、次のデータを落とす。同じ「D・B」で主人公の相棒が使ってる「次元壁貫通銃」だ。それをセットする。インジケーターがグリーンの点滅を始める中、俺は引き金を引いた。それをよけたゾディアックだったが。 『おうっ!?』 よけたはずなのに、弾丸が左の肩口に命中して、空中で姿勢がよろける。相当、慌ててるのか、しばらく、空中でよろよろしていた。 この銃の能力は「次元壁」を貫くこと。つまり「相手との間」にある「次元の壁」を貫く仕様なんで、事実上、相手が見える位置にいれば、どこにいても必ず命中する。この調子で次は、右肩に命中した。難点は照準を定められないこと。「次元の壁を貫く」ことに特化してるんで、相手の前面(つまり見えてる範囲)で、しかも大雑把な範囲が対象になってるんだ。 だが。 次の弾丸は、剣に弾かれた。次もその次も。 「……気づかれたか」 必ず命中する、ということは、相手からすれば「必ず弾丸が前面に届く」ということ。どのあたりに弾丸が来るか見当がつけられれば、容易に防げるということでもある。漫画でも登場三回目にして、見破られてたしな。 じゃあ、次の武器……となったところで、オレンジの点滅が早くなった。やっべ、リミットだ! その時、俺の頭に閃くものがあった。……試してみてもいいかもな。俺は璃依を呼び、「あるもの」を借りて、空に投げ上げた。一瞬でいい、見えてくれ! そう祈っていたら。 「……見えた!」 俺は、璃依から借りたコンパクトミラーに、ゾディアックの頭頂部が写ったのを確認した瞬間、引き金を引いた。後頭部に弾丸を受け、悲鳴をあげながら、墜落するゾディアックめがけて、璃依が気合いとともに跳び蹴りを食らわせる。 電子音のような音を響かせて、ゾディアックが爆発した。 鮎見が一言。 「もしかしたら、味方だったかも知れないわよ、ゾディアックって?」 しかし、志勇吾が否定した。 「だったら、俺たちに斬りかかってこないだろ?」 「何らかの理由で、私たちを止める必要があったのかも?」 インジケーターが消えて、脱力感を感じながら、俺は言った。 「やっちまったもんは、しょうがねえよ」 しばらくして。 「そうね」 と、鮎見が納得した。 いつも思うけど、こいつ、ホント、ドライだな。
翌週、火曜日。 昼休みに、例によって、屋上で四人揃っていると、そこに、一人の女子生徒がやってきた。 「あ、君は……」 「どした、志勇吾?」 俺の問いに、志勇吾が小声で「この子だよ、例の女子は」と答える。 へえ、確かにかわいいな。でも、なんかムスッとしてる。ていうか、明らかに怒ってる。 彼女は、俺と璃依を睨んで言った。 「なんてことするんですか! あなたたちは、ひと一人の人生を狂わせたかも知れないんですよ!?」 ……何を言ってるんだ、この子は? 璃依が困惑した表情で言った。 「え、と。あたし、なんかした? もしかして、この間のインタビューで、聞いちゃいけないこと、聞いたかな?」 しかし、彼女は答えず。きっつい表情のまま、志勇吾を見た。 「春瀬先輩、交友関係は考えた方がいいと思います!」 一方的にそんなことを言って、彼女は去って行った。 俺たちは、顔を見合わせて、首を傾げるしかなかった。 あとで事情を詳しく聞いた方がいいな。あんまりにも、意味不明だから。
(CASE6・了)
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