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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第50回   CASE6・5
 金曜日、午後十一時。
 今回、実体化したのは、まあ、楽勝だった。
「毎日、少しずつ変わっていく、初代校長の肖像画」だったんだが、志勇吾の「目」だけで、真相が掴めたしな。
 経緯を簡単に説明する。
 やはり、最初の頃は、数人程度しか認識できなかった。認識できた者の目には、明らかに肖像画は変化しているのだそうだが、他のものには、そうには見えない。だが、この間の水曜日、確認に来た者全員の目に、明らかに「人相の変わった肖像画」が、グラウンドに放射されたホログラムのような映像で確認できたらしい。そして、木曜日、物理的に絵が変化していた。
 もちろん、絵が実際に変わっちまったのを見たのは、校務員さん、校長先生をはじめとする一部の先生方と、猿橋、そして、俺たちFACELESSだけだが(玄関に掲示してあるが、絵が変わっていることに気づいた校務員さんが、生徒たちが来る前に取り外したそうだ)。
 で、真相。
「十七年前の美術部員が、初代校長の写真を元に、卒業制作に取りかかったが、利き手を怪我してしまい、完成に至らなかった。その生徒はいわゆる『現代アート』を目指していて、『完成させたかった』という無念が影響していた」。
 なので、無地のカンバスを用意し、俺のガントレットを鮎見が装着して、「絵筆」を落として、「『現代アート』画家のデータ」を実体化させた。そして、さらに鮎見が大阪がるたの「待てば甘露(かんろ)の日和(ひより)あり」を自分と同調(シンクロ)させて、絵を完成させた(こうしてみると、鮎見の能力ってすげえな)。
 もちろん、物理的な「絵」じゃねえし、そのスピードはメチャクチャだったんだが(何せ、三分間だし)、それでも絵が完成して、無念は解消された。
 出来上がった絵は、まあ、なんていうか……。
 ……うん! アートっていうことで!
 一件を解決させたあと、ふと「アーク探索のヒントでも見つけよう」って話になった。
 グラウンドに出て、志勇吾がゴーグルで全体を眺めるってことにしたんだが(鮎見は、疲労困憊してたし)。
「なあ、志勇吾」
 と俺が聞くと、ゴーグルをかけた志勇吾が「なんだ?」とこっちを向いた。
「例の娘(こ)からは、本当に何の連絡もないのか?」
「ああ、ないけど?」
 あれから、例の一年生からは、何の連絡もないという。同じ学校なんだから、ちょくちょく顔を合わせるだろうに、それすらないという。志勇吾の様子を見てると、嘘を言ってるようでもねえし。
 璃依も首を傾げる。
「極度の恥ずかしがり屋……だとしたら、そもそも最初の時点で、そんな行動とったりしないわよね?」
 まったく謎だ。
 それはともかく。
 アークについては、なにぶんにもヒントがなさ過ぎる。学園敷地といっても、範囲、広いしな。極端なことをいえば、建物の壁の中にしまい込まれてても、「敷地内にある」ってことになるし。
 とりあえず、今日のところは帰ろうってなった時だった。
 風を切る音がして、何かが、降ってきた。それは。
「……ゾディアック」
 俺が呟くと、五、六メーター先にいる有翼の女が、溜息をついて言った。
『あのさあ、こっちも忙しいの。面倒ごと、やめてくれる?』
 志勇吾が首を傾げる。
「面倒ごと、って、なんかしたか、俺たち?」
 俺も、璃依も、鮎見も頷く。少なくとも、俺たちは、こいつ……ゾディアックにとってなんらかの「面倒ごと」をやった覚えはねえ。しいて言うなら。
「不思議を一個、解決したってことか?」
 俺が言うと、三人もそれぞれ、頷いたり、首を傾げたり。
 一方、ゾディアックは、というと。
 なんか、動きがとまってる。志勇吾の方を見て、固まってるように思ったが、たまたま首がその方を向いているだけにも見えた。
 しばらくして。
『悪いけど、少しばかり、痛い目、見てもらうから』
 ゾディアックが剣を振り上げた。
 まずい! これは本気だ!


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