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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第5回   CASE1・5
 深夜。
 俺たちは学園に来ていた。猿橋が手を回していた関係で、夜間警備員さんに裏門から入れてもらい、時計塔に行く。
 ちなみに全員、制服姿だ。だが、これには理由がある。もし学校に向かう途中で誰かに見られたら、場合によってはお巡りさんに捕まって時間を取られる。そうなると「不思議事件潰し」ができねえ。
 それを防ぐため、付近の警察には「美台学園高校の制服姿で出歩いている者は、『マルエフ』だから、見逃すこと」というお達しを出してもらって、見過ごすようにしてもらってる。「マルエフ」っていうのは、FACELESSのこと。「F」を「○」で囲った隠語だ。だから、俺たちは制服姿になってる。ただし、璃依は、スパッツ履いてるけどな。
 なんでこういう、ある意味、超法規的措置が取られてんのか、っていうのには、ちょっとした理由がある。
 この「不思議事件」で昏睡者が続出したとき、何かの犯罪じゃないかってことで、地元の警察が介入してきたんだ。ところが犯罪あるいはイジメの痕跡は見られなかった。そして、当時、地元警察署の署長さんだった人の娘さんが美台学園に通っていて、不思議事件に関わり、意識不明になった。詳しいことは伏せられてるが、その娘さんは亡くなってしまったらしい。その後、ある生徒が不思議事件の一つを解決し、それに関わった昏睡者たちが、翌日、すぐに意識を取り戻した。
 そこから、署長さんの権限で「『マルエフ』には協力すること」っていうのが、申し送り事項になったっていう。
 ちなみにその時、事件を解決させた生徒っていうのが、FACELESSの顧問である真条(しんじょう)愛那(まな)さん。今、市内のアクセサリーショップの店員さんをやってるんだが、猿橋から連絡が来たら、警察署とか新聞社とかに連絡を取って、動かないように手配してくれる。あの時の署長さんからの申し送りで、彼女の発言力は大きいんだそうだ。

 時計塔を見上げながら、志勇吾が言った。
「どう思うよ、太牙。見た感じ、普通の時計だ。中の機械も、普通なんだろ?」
「ああ。業者が入って調べたそうだが、特に異常はないって聞いてる。今日も業者がメンテに入ったらしいが……」
 この時のことは、別にFACELESSでなくても、生徒全員が知ってる。業者のトラックが来てたし、担当の人たちが校務員さんと一緒に歩いてるとこ、大勢の人が見てるし、職員室で話すのを、何人かの生徒が聞いてる。
 このあたりから、時計の逆回転の話は、実は、学園中で噂になってた。もっとも、俺はそんなに聞いてるわけじゃねえ。クラスで二、三人、女子が話題にしてたなあ、ってのは思ったが。
 璃依が言った。
「あたしたち二年とか、一年の間では、そうでもないけど、三年生の間では、『逆回転の呪い』のせいで、三人の生徒が欠席したっていう噂で持ちきりみたい。放送部の先輩が言ってたわ」
 そのあとを、鮎見が、面白くもなさそうに続けた。
「生徒会室を出た、そのあと、新聞部に寄って話を聞いてきたんだけど。早くも新聞部ではこのことを記事にするみたいよ?」
 この二月、トルソーの一件が起きたとき、新聞部はそれを記事にしていた。残念ながら写真は撮れなかったらしいが(ていうか、撮ったはずなのに、データが消えてたそうだが)、その時に学園に忍び込んだ新聞部員二人のうち、一人が意識不明になった。
 なのに、また記事にするっていうのは、根性って言っていいのか、無謀って言っていいのか。昨年度、俺たちが解決した「不思議事件」は他に五つ。だが、そのどれも、新聞部は記事にはしなかった。当時の部長の判断らしい。どの事件にも、昏睡状態になった生徒がいたからな(もっとも、だからこそ俺たちが動くことになったわけだが)。
「不思議事件の呪いで、生徒が意識不明になる」っていうのは、有名な話だ。だから、場合によっては、意識不明になった生徒が、下世話な興味、または非難の対象になる怖れがある。良識のある人だったんだろう、その部長さんは。
 その部長は十一月、文化祭をもって引退した。どうやら、新たに部長に就任したやつは、人の心を持ってないらしい。「猿橋二号」と呼ぶことにしよう。


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