20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第49回   CASE6・4
 火曜日の朝、九時半のことだった。
 社長室のドアが荒々しく開け放たれる。秘書の桑原麻枝の制止を振り切り、一人の女性が入ってきた。
「寿子(ひさこ)……」
 その女性を見て、武繁は呟いた。彼の妻である。
「どうも。昨夜(ゆうべ)は、どこでお愉しみだったのかしら?」
 寿子は武繁の五歳年下だが、彼が若く見えるように、彼女も年齢よりも若く見られることが多い。
 冷ややかな笑みとともに、寿子はドアを閉める。まるで麻枝を締め出すように。
「単刀直入に言うわ、あなた」
 と、寿子はソファに腰掛ける。
「これまでの女遊びについては、不問に致します。なので、これからは身をただしていただきます」
「……いきなり何を言うかと思えば」
 と、苦笑を浮かべると、寿子が目を細める。
「昨夜、綿貫さんに、お電話をいただいたわ。大事な時期なのよ? 必要以上に慎重になっていただかないと。もし、ご自分から切り出しにくかったら、私の方からお話ししてもいいのだけれど?」
 と、頭(こうべ)を巡らし、麻枝のいる社長室受付の方を見る。
 やはり、知っていたか、と思いながら、咳払いをし、武繁は言った。
「いや、無用だ」
「そう。では、そのように」
 そして、寿子は去って行った。
 さて、どうしたものか。
 そんな風に、武繁は考える。無論、麻枝との関係をやめるつもりはない。かといって、今、寿子が言ったように、こういうところでつまずくのも面白くない。
 しばらく関係を控えて、様子を見て再開するか。あるいは。
「もしかしたら、ここらが潮時か?」
 麻枝は、上昇志向の強い女だということがわかっている。このままいって乾ホールディングス社長、いわば城主になった時、どのような行動に出るか、容易に見当がつく。
 ふと「麻枝を悪魔の生け贄にする」という単語が脳裏に浮かんだが。
「十五年ごとの半身、あるいは、契約更新時の『生命力』は『血縁者に限る』、だったな」
 ヴァレフォルの言では、九十年ごとの更新時には、最初の契約時のような「生け贄」は必要ないが、やはりそれなりに代償が必要だという。そして、その対象は「血縁関係にある者の生命力」なのだそうだ。その理由について、何か難しいことを言っていたが、要するに「身内を犠牲にするぐらいの覚悟が必要だ」と解釈しておいた。どうも魔術用語、あるいは悪魔との契約に使う用語というのは、ややこしくていけない。いかに相手の思惑を封じるか、裏をかくか、ということを考えねばならないから、らしいが、なんにせよ。
「麻枝は対象外か」
 それ以前に、九十年ごとの更新時には、兄・圭史の生命力をその対象にしているから、そもそも適用できない。また、例の「運転資金」の対象は、学園の生徒になっている。となれば。
「……陳腐だが、麻枝の抹殺を悪魔に依頼するか……」
 一瞬、そんなことを考え、ふと苦笑を浮かべ、その考えを否定した。
 漫画じゃあるまいし、そんな程度のことで悪魔による抹殺など、愚かしいにもほどがある。
 そう思いながら。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1412