20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第42回   CASE5・3
 午後五時。
 俺、璃依、志勇吾、鮎見の四人は、体育館西側の壁の前に来ていた。
「おー、おー、やってるやってる」
 二つの黒い影が、ボクシングの試合をやってるんだ。これがホントの「シャドウボクシング」なんてボケようと思ったが、十中八九、鮎見当たりに突っ込まれるんでやめた。
 鮎見がトートバッグからなんかのケースを出す。バッグを地面に置き、ケースを開けるとそれに入っていたのは、紫色のベルト。それを首に巻く。
「へえ、お前のアイテムは首輪か」
「首輪とか言うな!」
 鮎見が睨む。璃依が俺を見て、呆れたように言った。
「チョーカー、っていうのよ」
 ゴーグルをつけた志勇吾が言った。
「則美(のりみ)篤雄(あつお)、倉原(くらはら)静栄(しずえ)、木村(きむら)三郎、三年の夏、復讐。……このぐらいだな、視えるのは」
 スペードマークが赤に変わる頃、志勇吾がゴーグルを外す。
「どうも、この『則美』っていうのが、幻姿の主(ぬし)らしいが、そいつの主観だけが実体化しているようだ」
 俺が首を傾げる。
「つまり?」
「完全にプライベート。どこかに記録されてるわけじゃないし、噂話として広まったとか、でもない。こいつ個人の問題で、要するに、確認のとりようがない」
「まいったな」
 これじゃ、無念の解きほぐしようがねえ。
 どうしたものか、と思ったが。
「鮎見、視ることができるか?」
 俺は鮎見を見た。
「わからないけど、やってみるわ」
 そう言って、鮎見は例によってあぐらをかき、前に白い布を広げる。錦袋を四つ置いて、そして、首輪……もといチョーカーのスイッチを入れる。
 ちょうど喉の中央辺りで、ペリドット(だっけ?)みてえな薄い緑色のクローバーマークが光る。
「神卜の、御業、顕す、歌神の、御手、宿ります、吾が手吾が指」
 なんか、声が電子加工されたみてえな感じだな。璃依も同じように感じたらしく、俺と目が合ったときに、小さく首を傾げた。
 短歌(正式には呪歌(まじないうた)というそうだ)を唱え、鮎見が袋の上に手をかざした。一つの袋との間で、閃光が走る。
「これか」
 と、鮎見は袋を開く。中に入っていたのは百人一首。ちなみに、袋は全て同じ色・模様。大きさや厚みも同じになるようにあつらえてある。「恣意(しい)が入るのを防ぐため」だそうだ。
 そして札を例によって裏にして綺麗にスライドさせ、その上を指でなぞると、一枚の札を指が弾いた。それをめくる。
「人も愛(お)し 人も恨(うら)めし あぢきなく 世を思ふゆゑに もの思ふ身は」
 電子加工したみてえな声で、札を読み上げる。ちょっと考え、鮎見がボクシングをしている影に重ねるように、腕を伸ばして、札を掲げた。しばらくして。
「『ひどいよ。僕は、倉原さんのことが好きなんだ。なのに、なんで、殴られるんだよ! 木村のヤツ、絶対にゆるさない! 一緒にいて、ワラっていた倉原さんも……! 僕に、力があったら! あのマンガの主人公のように、ボクシングでも出来たら!』」
 チョーカーのクローバーマークが、レモン色の点滅に変わった。
 大きく息を吐き、肩で息をしながら、鮎見がチョーカーを外す。
「……ちょっと面倒よ、怨念がらみみたいだから」
 すげえ。今、鮎見がやったのは、ほとんど「神降ろし」だ。
 それについては、あとで話を聞こう。それはともかく。
「そうだな」
 と、俺は璃依を見た。璃依も困ったような表情で頷く。
 怨念絡み、ってことは、解消がメチャメチャ難しい、ってことだ。だから、この場はなんとかできても、また復活する。
 何らかの形で本人がその恨みを忘れてくれればいいが、これはもう、俺たちになんとか出来ることじゃねえ。
 結局、あとで復活すること込みで、この場は消滅させよう、ってなった。そうしないと、今、昏睡状態になってる生徒たちが、衰弱しちまう。下手すると……。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1726