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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第41回   CASE5・2
 午後四時半。
 俺と璃依は屋上にいた。
 ここの屋上へのドアの鍵は、午後六時に校務員さんが閉める。それまでは、自由に立ち入ることが出来る。俺は缶コーヒー、璃依はグレープソーダ片手に、ここに上がっていた。
 今日は七月第二週の金曜日。ついでに言うと、テスト休みだ。そう、美台学園では、先週の金曜日から、昨日まで、期末テストがあったんだ。で、今日は採点とか色々あって、学校は休み。にもかかわらず、俺たちはここにいる。
 実は、また、七不思議が実体化した。試験中の夜中に確認に行くな、って言いたいところだが、今回発生したのは「夕方、体育館の西側の壁に浮かび上がる、ボクシングの試合」。つまり、わざわざ深夜の学校に忍び込まなくても、見ちまうって事だ。
 試験期間中は、午前中で生徒全員、下校。門が閉まるし、部活動も、基本、禁止。だが、なんかの予選とか、大会を控えているところは、特別に午後四時まで、という条件で活動できる。
 で、見ちまったわけだ、県大会予選を控えていた男女バスケ部の部員が。
 俺は転落防止のネット越しに体育館を見ながら、言った。
「何だと思う、今回のヤツ?」
 璃依が答える。
「んー。ボクシング部とか、結成された記録とかないんだよね、実際? ……何の無念なんだろうね?」
 これまでのことから考えて、何らかの無念だろうが、ボクシング部とかないんだよなあ。設立請願が出された記録もないし。ということは。
 俺は、コーヒーを一気に飲んで言った。
「誰かがボクシングに強い想いを抱いている、あるいは抱いていた、以上のことはわかんねえか」
 璃依も、ソーダを飲み干して言った。
「詠見ちゃんが何か掴んでくれるかも?」
「そうだな」
 鮎見は、先週の土日に、俺と璃依の実家がある町へと行った。俺や璃依、志勇吾がつけているような補助アイテムを作るためだ。先月の空手部の一件で、「素」で平常以上の力を出すことの無茶さがわかったそうで、アイテムの補助があるんなら、その方がいいってことになった。で、俺と璃依が一緒に行って、そこでアイテム作成のためのチューニングをした。ちなみに俺たちの町があんまりにも田舎なんで「なんかの映画のセットみたい」とか言ってやがった。
 失礼なヤツだな。
 でも、景色は気に入ったらしく、「夏休みに写生に来たい」とか言ってた。
 いいヤツだな。
 まあ、とにかく、今日、そのアイテムが宅急便で届いたっていう連絡があったから、もしかしたら、何かわかるかも知れねえ。
「ところで話は変わるんだけどな」
 と、俺は璃依を見た。
「例の、『悪魔十体につき生け贄一人、それで七人・七不思議』ってやつだけど」
「うん」
「二ほど、端数、出るよな。ゲーティアの悪魔は七十二体だし?」
「出るね。それがどうかしたの?」
「いや、さ。相手は悪魔だろ? その辺もちゃんとクリアされてるんじゃねえかな?」
 璃依が首を傾げる。
「クリア、て?」
「だからさ、きちんと七十二で、帳尻が合うようになってるんじゃねえのかな?」
「うーん」
 と璃依は考え込む。しかし。
「わかんない。そもそも契約書に、なんて書いてあるかがわかんないもん。見当もつかないわよ。でも、それがどうかしたの?」
「いや、もし、その端数が、何らかの恐ろしい結果に繋がってたらイヤだなって思ってさ」
「恐ろしい結果、って?」
 不安げな璃依を見てると、怖がらせちゃいけないな、と思ったが、ここで言わないのもなんか消化不良だ。だから、俺は言うことにした。
「例えば、普段は昏睡中の生徒からエネルギーを吸いとるけど、なんかの条件を満たしたら、起きてる生徒の生命力も無差別に吸いとる、とか、さ」
 端数の「二」っていうのが、例えば何らかの条件を満たすと発動する「何か」って気がするんだ。
「ちょっとやめてよ、太牙!」
 璃依が大げさでも何でもなく、怖がってるのがわかる。だから。
「すまねえ。アークを見つけて、それを処分すれば、万事、解決だからな。頑張ろうぜ!」
「……うん」
 璃依が怯えながら、頷いた。
 一瞬。
 その端数の「二」が、アークを処分することで発動する「何か」だとしたら、なんて思ったが。
 今の段階で、わからねえことは、いたずらに口にしねえ方がいいな。


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