でも、まあ、要約すると。 長針と短針が重なる少し前、時計塔周辺に何かが「走る」ような感じがあったんだそうだ。それは証言者の形本先輩やD組の先輩女子(藤沢という人だ)だけじゃなく、五人全員が、そう感じたらしい。五人で、今のはなんだろうと話していると、遠くに、しかも二十メートルの高さにあるにもかかわらず、針が重なった瞬間に金属を打ち合わせるような、甲高い音が聞こえてきたという。 何か異様な、底知れない恐怖にも似た感覚を覚えながらも時計を見ていると、やがて、時計の針は逆転を始め、五分後、時計が午後十一時五十五分を指したところで、帰宅することにした。 そして翌朝、つまり昨日の朝、C組では企画(イベント)に同行した男子二人が、D組では江藤先輩が欠席した。胸騒ぎを覚えた形本先輩と藤沢先輩は、それぞれの担任教師を問いただして詳細を知り、七不思議に関する噂話が本当であることを知って、生徒指導教員に相談した。 猿橋がシニカルに言った。 「昨夜、風紀委員会の一年、山下くんに確認してもらった。彼は現在、意識不明で病院にいる」 俺たちは溜息をついた。志勇吾が天井を仰いで、嘆息とともに言った。 「お前、いい加減にしろよ。そういうことやってると、本当に友だちいなくなるぞ?」 猿橋は、やっぱり薄く笑って言った。 「彼らは駒であって、友ではない」 こういうヤツなんだよ、猿橋って。二年にして生徒会長に推挙されたのは、成績優秀で、学力という点だけで見たら高校卒業レベルだから、らしい。美台学園には「飛び級」の制度がないから、高校生に甘んじているが、本来なら大学に入っていてもおかしくないそうだ。 だったら、最初から高校(うち)に入るなってことだが、それには理由がある。それについては、後で述べる。 「大丈夫だ。君たちが事件を解決してくれれば、昏睡者は無事に意識を取り戻す」 クールにそう言うと、猿橋は念押しするように俺たちを見た。 「例によって、期限は昨日を起算日として七日だ。顧問の真条(しんじょう)さんには、僕の方から伝えておく」 俺たちは頷いた。この「七日」の理由について、猿橋は教えてくれない。多分、以前、昏睡者の中から死者が出て、それが意識不明に陥ってから七日目だったんだろうって、歴代FACELESSでは、考えてる。 「それから」 と猿橋は続けた。 「『アーク』の調査も続けてくれたまえ」 俺たちは、それぞれ、適当に答えておいた。
「アーク」っていうのが何かは、実はわからない。猿橋は「アーク」なるものが、この高校にあると信じている。で、俺たちの推測。 アークっていうのは「ノアの箱舟」のことだが、モーセの十戒の石版をおさめた聖櫃(せいひつ)のことでもある。十戒の石版は、いうなれば契約の証。 ここから、猿橋がいう「アーク」は「学園上層部(おそらく現理事長あたり)が、何者か(多分、企業とか政治家のお偉いさん)と結んだ、何らかの密約文書」じゃないか、ってことになってる。 猿橋は、前の理事長の孫なんだ。で、前の理事長さんは、三年前に当時、理事の一人だった現理事長に追い落とされてる。 つまり。 祖父の仇を取り、あわよくば返り咲かせて、将来的に自分の立ち位置もいいものにしよう、って考えてるわけだ、猿橋のヤツは。そのためにわざわざ、うちの学校に入った、って俺たちは睨んでる。
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